異邦人
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出し抜けに、白髪の異邦人がノックも無しにドアを開け、ずかずかと部屋に入ってきた。
ビックリして固まる三人を尻目に、ぐるりと部屋を見渡す。
赤い瞳に臙脂の服。どこか浮世離れした雰囲気の人物だった。ゆるやかにカールしたその長い髪に、一瞬女性かと見紛う。しかし、口を開いて出てきたのは、重々しい低音だった。

「彼女は何処だ」

誰も答えない。彼が言う『彼女』が分からないのだ。

「……知り合いかい?」

フレンが尋ねた。

「いや。知らねえ」

この部屋の主であるユーリも知らない。ガイに視線を送ってみても、首を振るだけだった。

「彼女はお前が保護していたのではなかったのか」

向けられた赤い瞳に、フレンは男がフィナの事を言っているのだと悟った。
この男との面識は無い。それなのに、彼はフィナの事を知っている。
怪しい。一体何処の誰なのだ。
保護者としての防犯意識に火がついた。
不審者を見るような目を向けてやったが、彼は全く意に介した様子が無かった。

「直にこの世界の時が止まる。私には、この世界を守るという友との約束がある。娘は何処だ」

『直にこの世界の時が止まる』。誘拐犯の手紙の内容と同じだった。
この男、何か知っている。部屋に緊張が走った。

「すまないが、ちっとも話が見えない」

最初に物申したのはガイだった。

「時が止まるってのはどういうことだ? それとあんたが探してる娘。どういう関係があるのか、さっぱりだ」

気分を害したのか、白髪の男は無言でガイを見た。けれどもそれは杞憂だったようで、彼は先程と変わらない調子で淡々と語り始めた。

「娘がこの世界に来たときから、テルカ・リュミレースの組成は変わった。無限の時を輪のように巡っていた構造は破壊され、娘の持つ時を糧に世界が廻るようになったのだ」

「……つまり、フィナがこの世界に来たことを原因に、彼女がここにいないと世界が動かなくなった、という事か?」

フレンの質問に、男は「その認識で構わない」と淡白に返した。

「フィナが来る前の状態には戻せないのか? フィナが帰ってこなくていいわけじゃないが、このままだと何にも出来ないまま立ち往生するハメになるんだろ?」

「可能だが、この世界での娘の存在は抹消され、あちらの世界から帰還できなくなる。お前達の記憶からも、彼女の存在は消える」

「本末転倒って訳か」

ユーリは降参、といった様子で諸手を上げた。そして、ガイが心配そうな顔で片手を上げた。

「なあ、俺も一応異世界人な訳だが……」
「貴様の時は使えない」
「即答かよ!」
「この世界の仕組みにも干渉できない」

立て続けに己の価値を否定され、ガイは苦笑いを浮かべた。

「分かったから、もし何かいい方法があったら教えてくれないか」

「むこうの住人がやったように、お前を生贄に道を開く」

そう言うと、男は赤い刀身の剣を取り出した。不思議な“気”を纏ったその剣は、明らかに普通の武器と違っていた。
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