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世界から色が消えた。

太陽は分厚い雲の向こうへ隠れ、ぼんやりと弱い光を発している。
朧月ならぬ朧日。上へ向けていた視線を水平に戻すと、再び色の無い灰色の世界が目の前に広がる。
盛んに降りしきる雪は、パンくずのように白くてフワフワだった。
外灯のスポットライトに照らされた雪は、まるで作り物のように周囲から浮いて見える。
静かだった。音がしない。まるで、耳がつまってしまったかのようだ。


「フィナ」


ざあ、と衣擦れの音が響いて、すぐ近くに人の気配がした。


「フレン」

「帰ろう。雪颪も鳴ってる。直に激しい降り方になるよ」

「ゆきおろし?」

「大雪の前兆だ」


もこもこの手が、私の毛糸の手を取った。
見上げると、フードからはみ出た彼の前髪と、長いまつ毛に、白い綿雪がちらほら付いている。


「さむい?」

「うん。寒いね」


彼の手が、私のニット帽に積もった雪を払う。落ちた雪の雫が首筋に落ちて、ぴりっとした。雪なのに、まるで火を近づけられたみたいだ。


「つめたい」

「そうだね。冷たい」


彼の手が私の頬に伸びそうになって、止まった。代わりにその手は私の両肩に乗り、彼はしゃがんで顔を私に近づけた。


「フィナのほっぺも冷たいね」

「フレンのほっぺもひんやりするよ」

「うん。冷えて、真っ赤だ」


折角肌を寄せ合っても、この雪の中では意味が無かった。
雪の勢いは衰えず、フレンの言うとおり強くなっているようだった。

低い空に、まとわり付く雪。まるで四方に壁が立っているような閉塞感があって、まるで世界に私達二人だけが取り残されたような感覚に陥る。
不思議だね、とフレンが小さく笑った。


「世界には人がたくさんいるのに。僕らしかいない」







   

(今日も、二人だけの世界で)
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