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「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」

「う〜ん……それは困ったな」

彼はあまり困っていない様子で、目を細めて笑った。
しばらく待ってみるが、ニコニコと私を眺めるばかりで一向にお菓子が差し出される気配は無い。
おかしい。ちゃんと事前にハロウィーンについて説明してあるのに。
もう一度、脅しをかけてみた。しかし彼は「どうしようかな」と笑うばかり。イタズラの内容を考えていなかった私は、大いに戸惑った。
きちんとお菓子を出してもらわないと困る。そうしないと、ハロウィーンの『お決まり』は成立しないのだ。
仕方が無いので、強硬手段に出る事にした。
デフォルメの虫歯菌がよく持っている、黒い三又の槍のレプリカを両手で構え、弁慶の泣き所めがけて突っついた。

「えい」

「わ」

カン、と軽い音がした。金属の脛当てに、攻撃はあっさりパリィされた。
元々効くとは思っていないので問題ない。取引材料になればよいのだ。

「どうだ。お菓子を出せば勘弁してやるぞ!」

芝居がかった口調でそう言ってやると、彼は「フィナは強いな〜」と見当はずれな事を言いながら頭を撫でてきた。
あまり撫でられると、ツノ付きカチューシャがずれてしまう。
カチューシャを押さえながら頭を振って、彼の手を払った。
ここまで舐められるなんて、お化けとしてのプライドが許さない。
と、本物のお化けなら思うはず。今日の私は演技派なのだ。

「もう怒ったぞ!こうなったら、お前の……えーと……」

ドカンとインパクトのある事を言いたかったのだが、出てこない。
何か、フレンを思いっきり困らせるような、脅し文句は無いだろうか。
そう考えている間にも、彼は幸せそうな顔で私を見ている。これではお菓子がもらえそうに無い。

「フフ、可愛いね。この服はエステリーゼ様が用意して下さったのかい?」

ジロジロと服を検分され、しまいにはお尻から伸びているしっぽを引っ張られた。

「細かい仕立てだなぁ。針金が入ってるんだね」

「触るな下劣な人間め!」

「……フィナの演技も細かいね。そんな言葉何処で覚えてきたんだい」

「う」

怒りの気配を感じて口を閉じた。これでは逆だ。私が彼に怯えてどうする。
もう彼からお菓子をせびることは無理だ。そう判断して背を向けた。

「どこへ行くんだ?」

「フレンじゃお菓子もらえないから、ソディアさん探しに行くの」

「そんな!待ってくれ。もっと色んな角度から観察を……そうだ!写真ギルドを呼んで写真を撮ってもらおう!」

フレンが孫娘の晴れ姿に興奮するジジのようになってきた。
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