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「魔法少女になって、ボクと一緒に悪いマモノを退治してほしいですの!」

私はさっきまで、テッドと一緒に遊んでいた。というか、連れまわされていた。
彼は今の私より年上なため、兄貴風を吹かせている。『弟』の私に下町の何たるかを教えるという使命に燃えていて、今日は下町の遊び場を一通り教えてもらった。
そして、遊び場を回り終えると彼はこう言ったのだ。

「どっちが先に宿屋まで戻れるか競争な!」

下町の裏道をどれだけ覚えているか、というテストなのだそうだ。
彼は「手加減してやるから頑張るんだぞ!」とだけ言い残して、さっさと宿屋に向かって走って行ってしまった。
下町通の称号に魅力を感じなかった私は、自分のペースでのろのろと歩きながら宿屋を目指していた。
そんな折。
わき道から、小さな動物が飛び出してきた。

「魔法少女になって、ボクと一緒に悪いマモノを退治してほしいですの!」

ウサギのように大きな耳(っぽいもの)、丸い頭と胴体、小さな手足、水色と白の短い毛に覆われた体。二本の後ろ足で人間のように立っている。
ハンカチに描いてあった、『ミュウ』というキャラクターそのものだった。

「ボクはミュウですの!よろしくお願いするですの!」

本当にいたんだ。想像上の動物じゃなかったんだ。
そんな事を思いながら、目の前で大きな耳を揺らしている動物をじっと見た。
絵のように可愛い。けれど、喋ると意外とうざったかった。
飼うのは無理だ。きっと、フレンに怒られる。
私はその旨を彼(彼女?)に告げ、謝罪して帰ろうと踵を返した。

「待つですの!! 今このときにも、マモノの脅威はこの世界に広がっているですの!! ほうって置いちゃいけないですの!!」

「結界があるから平気だよ」

この世界、テルカ・リュミレースの街は、結界によって魔物から守られている。この世界に来てすぐにフレンから教えてもらった事だ。
そんな事も知らないなんて。もしかしたら、この動物は私と同じなのかもしれない。

「あなた、何処から来たの?」

「オールドラントという世界ですの! オールドラントから逃げ出したマモノを追って、この世界まで辿り着いたですの!」

予想は当たった。この小動物も私と同じで、異世界から来たらしい。
けれど、何故だろう。彼の話を信じる気には全くならなかった。恐怖心を煽って物を売りつける、悪徳業者や宗教団体と同じニオイがするのだ。

「あなたは元の世界に帰れるの?」

「マモノを全て退治するまで帰れないですの! 勝手に帰ったらご主人様に怒られるですの……」

「そう。がんばって」

勝手に家に帰れるなら放置しても問題ない。
そう判断した私は再び彼に背を向け、フレンが待っているであろう下町の酒場に向かって歩き出した。
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