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やっと、この時がきた。

校庭に並ぶ桜の木は綿飴のように膨らみ、薄桃色の花びらが、時折、思い出したように黄土色の地面に落ちた。
僕は生徒会室の窓から校庭を見下ろしていた。大きめの制服に着られた新入生たちが、期待と恐れを胸に昇降口へと急いでいる。まだ、暗い色の頭が多い。夏休みが終わる頃には、この景色はもっと明るいものになっているだろう。

あの子はどこにいるのだろうか。

僕は自然と、記憶の中のあの子を探し始めていた。
久しぶりに会うのだし、この距離、そして皆同じ服装では、見つけることは不可能だろう。だが万が一の事があるかもしれないと、女子生徒だけ選んで視線を彷徨わせた。やはり、皆同じに見えた。
新入生の群から目をそらし、生徒会室を見渡した。
机の上に散らばっていたプリントは、先程僕が片付けた。会議がしやすいよう、四角く並んだ机にはパイプ椅子が規則正しく並び、壁に沿って並んだ棚の上には、行事で使った良く分からないハリボテやダンボール箱が乗っている。
僕がこの部屋に来て二年。彼女がこの学校にやって来るのを待って、もう二年。
生徒会長になったのも、全てはあの子を迎えるためだった。彼女が楽しい学校生活を送れるよう、校内の環境を整える必要があったのだ。菓子類持込禁止の校則を廃止したのもその一環だった。

「そろそろ、時間かな」

壁掛け時計の長針を確認し、僕は生徒会室を後にした。

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