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たとえ気落ちしても、彼はちっとやそっとじゃ退かない男だった。
リング外にいる進行係の人が、「もう次行っていい?」とジェスチャーで尋ねてくる。早くここから降りないと、優勝決定戦が始まってしまう。

「一度だけ、君と一緒に任務をこなしたよね」

急にフレンが思い出話を始めた。思い出と言っても数週間前の事で、単に騎士団と合同で魔物の討伐をしただけの出来事。

「そのとき君が見せた精霊術は、騎士団でとても評価が高かったんだ」

「ほ、本当ですか?」

「うん。剣は止めて魔導士になればいいのにって人がいるくらい」

「………」

「ああえっと! 騎士は剣をよく使うから、つい厳しい目で見てしまうものなんだ!」

「そうですか……」

「ええと、それで……君の精霊術を見せれば、観客もきっと納得してくれると思う」

だから、と彼が右手を差し出した。

「僕に、君の力を貸して欲しい」

いつもこの手を取るのは、引っ張ってもらう時だった。小さい私がどこかへ行かないようにと、手を繋いで道筋を示してくれるのだ。
今は違う。私は彼と対等な存在として、協力を仰がれている。
心が浮き立つ。嬉しくて飛び跳ねてしまいそうだが、ぐっと堪えて右手を上げた。今度こそ彼の力に、彼の助けになれる――――


「見つけた! 見つけたぞぉぉ!!」

突然、男の叫びが闘技場に木霊した。観客席だろうか。驚いて声のした方を見ると、派手なピンク頭の人影が観客席から飛び降り、猛スピードでこちらに近づいて来る所だった。

「あいつは……!」

フレンが剣の柄に手をかける。私も腰を落として身構え――――

「――――!!?」

人影が急激に迫る。まさか、狙いは私?と体を緊張させた時には、人影は目の前にやって来ていた。

「きゃあっ!?」

腹にタックルされ、そのまま宙に浮いた――――と思ったら、どうやら男に俵担ぎで運ばれているようだ。眼下にぽかーんと口を開ける観客が見え、視界が回って空が見え、次にあまり会いたくない人物の顔が視界いっぱいに広がった。
派手なピンクの髪に金の前髪、三白眼……
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