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「……あれ?」
私の術は、地面について消えた。
「黒髪の君! 怪我は無いかい?」
「え、あ、はい」
『エ〜クセレ〜ント!! シーフォコンビ、一瞬にして勝利を手にしたーッ!!』
おかしいな。
そう思ったものの、フレンは「君にこの勝利を捧げるよ」と嬉しそうに言ってくるものだから何も言えなかった。
そうだ。フレンにとっては物足りない相手だったのだ。次こそ、私の力を役立てることができるはず。
そう思ったが甘かった。
『グッレ〜〜〜イト!! 無敗のチャンピオン相手に、全く歯が立たなかったーッ!!』
『ビューディホーーー!! もはや彼の独壇場!! これはまさか出来レースだったのかーッ!? 疑いたくなるほどの美しい勝利!!』
「…………」
二戦三戦も同様の結果に終わった。
ぜんぶ、すべて、ことごとく、フレンが倒してしまうのだ。しかも、汗一つかかずに。
「いい訓練になった!」
「…………」
フレンと協力して、私がフレンの力になって、闘技場を勝ち進んでいく―――そんな理想図は、もろくも崩れ去った。
私、何やってるんだろう。これじゃあ、わざわざ個人戦を辞退して、団体戦に出た意味が無い。
フレンは、私の力なんて必要としてなかった―――いや、私はフレンの役に立てるほど強くなっていなかったんだ。
そもそも私が闘技場に参加しようと思ったのは、自分の力を試せると思ったから。
だったら、ここにいる意味なんて……もう無い。
「フレンさん」
「なんだい?」
「私、やっぱり個人戦に出ます。この試合は棄権します」
「え!?」
フレンは目に見えて慌てた。慌てて私に向き直り、まじまじと私の顔を眺める。
「な、何を言うんだい!? あと一勝で優勝じゃないか!」
「私、全然戦ってません。それなのに優勝者になるなんて……そんなの、誰も納得しません」
「それは……」
上手く痛い所を衝けたようだ。彼は押し黙り、地面を見た。
私はどう考えてもチャンピオンに相応しくない。彼も分かっているのだろう。
彼は小さく「すまない」と詫び、顔を上げた。
「君の身を案じるばかりに……そして、君に良い所を見せようとするあまりに、張り切りすぎてしまった」
思い返してみれば、戦闘終了後のフレンは「褒めて!」と言わんばかりのキラキラとした目を私に向けていた。それはもう日を受けた川面のような。
―――好きな人が見ているから、と張り切った結果があの一人舞台だったのか。
目からうろこが落ちた。途端に今目の前でしょんぼりしているフレンがとても愛しく、可愛らしく思えてくる。
「黒髪の君」
「はい?」
「僕にチャンスをくれないか。最後の試合を、君と力をあわせて戦いたい」