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「お、おーい、フレンちゃん?」
「……なんでしょうか、レイヴンさん」
「ちょ、本気で睨まないで怖い怖い! あのね、チビちゃんが喋りたそーにしてるから、話を聞いてあげたらいいんじゃないかなーって、おっさん思うんだけど!」
「そうでしたか……ごめんね、フィナ。なんだい?」
「え、えっとね、あのね、フレンが戦ってる間ね、レイヴンさんと一緒にいればね、いいなって……」
みるみるフレンの顔に光が差していく。牢獄に救いの天使が舞い降りたかのように、驚きと感動で全身が震えている。その目に涙が滲んでいるように見えるのは、多分気のせいじゃない。
「フィナ……! 君は、なんて心優しい善い子なんだっ……! ごめんよ、君の気持ちを疑ったりして……君は、僕を気遣ってくれたんだね。ありがとう」
少年のような、純粋無垢で人畜無害な笑顔が向けられた。これが、さっきまで取り乱していた人物と同じ人だなんて。そう思うくらいの変わりっぷりだった。
元に戻ったフレンに安心し、レイヴンは「ふいー、やれやれ」とため息をついた。
「つまり、フレンちゃんがトーナメントに出場してる間、チビちゃんを見ていて欲しいわけね?」
「うん」
私が返事するのも変な感じだが、提案したのは私なので頷いた。
「でもそんないきなり……レイヴンさんにご迷惑だろう?」
「いやいや、大丈夫! フィナちゃんみたいな可愛い子の子守なら、このレイヴン、喜んで引き受けさせて貰うわよん」
これ以上フレンの機嫌を損ねてはいけない。そう思っての快諾だったのだろうが、フレンはそれを不審に思ったようだ。
「……フィナ。何かあったら大声で助けを呼ぶんだよ」
そう、こっそり私に耳打ちした。
そんな悶着があったものの、フレンは嬉しそうに観客席を後にした。
きっとまた優勝だ。彼は星喰みの災厄を越えて、より強くなったのだから。
フレンがカッコよく敵を倒す様を想像して、えへへと笑った。観客も、彼のあまりの強さと格好良さにビックリするに違いない。あの人は私のお父さんなんだよ!と、流石に言ったりはしないけれど、そう言いたくなるくらい得意になってしまいそうだ。
「ねえねえ、チビちゃん」
「なんですか」
フレンの席に納まったおっさんを振り返る。彼は心配そうな面持ちで、
「さっきフレンちゃんが口滑らしたけどさぁ……近頃、彼と仲良くしてる女の子……いるの?」
どう答えたものだろう。
レイヴンは、私の秘密を知らない。それに、なんとなく教えたくない。私が、その女の子だとは。
黙っていると、上手い具合に勘違いしてくれたらしい。「いや、やっぱいいわ」と退いてくれた。
ほっとしてリングに視線を戻した。私が大人の姿になってギルドに参加していることは、凛々の明星の皆しか知らない。