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闘技場観客席への扉を開く。小さく聞こえていた歓声が、テレビの音量を上げたように一気に大きくなった。外は海風で涼しいくらいだったが、ここは人々の熱気で蒸し暑い。席は殆ど埋まっていて、皆拳を振り上げて歓声や罵声や応援、思い思いの言葉を叫んでいる。リングに目をやると、屈強な男の人が大剣を振り回して、風船みたいな魔物と戦っていた。

「すごいな。あんなに大きな剣をあれほど細やかに、自由に扱えるなんて……」

リングを見つめる彼の目はキラキラとしていた。やはり、彼は剣や戦いが好きなのだ。
嬉しそうなフレンを見ていると、なんだか私も嬉しくなってきて、一緒に「すごいね!」と言って喜んだ。
席に着いてみると、戦いが間近に見えた。参加者の表情が見えるほどだ。目の前で行われる正々堂々とした戦いの数々に、私達は夢中になって…………

…………いたはずなのだが。

ふと気が付くと、いつもキッチリ礼儀正しいフレンが、ムズムズと落ち着かない様子だった。
理由は簡単に察しがついた。彼も、あそこで戦いたいのだ。

「フレンは参加しないの?」

「……しないよ。フィナを一人には出来ない。僕が参加したら、フィナが寂しい思いをするだろう?」

「寂しくないよ!」

つい大声を出してしまった。
だって、私の存在が彼の行動を制限しているなんて、嫌だ。私は彼の負担になりたくないのだ。(完全に扶養家族で面倒を見てもらっているのは置いておいて。)
彼は私の大声に驚いた様子だったが、すぐに優しい微笑みになった。私の反論を、子供故の強がりと思ったのだろう。

「そっか。でも―――」

「おーい! 若者〜〜チビちゃ〜ん」

フレンの声を、聞き覚えのある男性の声が遮った。
二人できょとんとしながら声のした方向を向くと、片手を上げた浅黒い肌の男性がこちらに小走りで近づいてくる所だった。
声の主を判別するや否や、フレンは席を立ち、背筋を伸ばした。私は素早くフレンの後ろに隠れる。

「あらやだ。そんな怖い人が来たみたいな反応しなくてもいいじゃない」

男は私を見て眉尻を下げた。黒い靴、黒いズボン、紫色の羽織、そして不精ヒゲ。
ギルド『天を射る矢』のメンバーにして、元帝国騎士団隊長主席、おっさんレイヴンだ。
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