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「きっさまああああああ!!! 彼女を放せ!!」
フレンの怒号がコロシアムに響く。顔を赤くし、目を吊り上げ、剣を構えるその様は、まるで鬼のようだ。
彼がこんなに怒るところ、初めて見た。帝都を危機に陥れ、エステリーゼを道具のように扱ったアレクセイに対してすら、ここまで激しい怒りは見せなかったというのに。
悪漢に捕まっている身にも関わらず呆然としてしまった。“この姿”になってから、フレンの知らない顔を発見してばかりだ。
『あーっと!! 謎の乱入者の登場で、戦局は全く分からなくなったーッ!! ここはどこ!? ヤツは誰!? 謎が謎を呼ぶ団体戦ファイナルラゥゥーーーーンド!!』
ノリノリのリングアナのアナウンスに煽られ、歓声が一気に押し寄せる。闘技場側は、この乱入を全く問題視していないようだ。図太い。
「安心してくれ。すぐに君を救い出す。そう、騎士の名にかけて!!」
彼がまぶたを下ろし、剣を構えなおすと、風でふわりとマントがはためいた。再び碧い瞳が現れた時には、既に彼はいつもの凛とした表情に戻っていた。
「ほら、フィナあーん」
フレンが差し出したのはなんとも不気味な見た目の、棒に刺さった焼き魚だった。
「なあに、これ」
「バタンギ、っていうお魚だよ。名物なんだって」
「おいしい?」
「ん〜、少し淡白かな」
という事は普通に美味しいのだろう。フレンがやたらと濃い味や癖の強い味を好むのは経験から知得済みだ。彼の差し出す焼き魚には、既に一口齧った跡がある。私も一口かぶりついてみると、脂の乗った、美味しい焼き魚だった。
青空にカモメがゆったりと飛び交う港町。しかし空から地上に目線を移すと、そこは人と屋台がひしめき、熱気と活気が溢れたお祭り騒ぎの観光地だ。
闘技場都市ノードポリカ――――私とフレンは、この街に初めての家族旅行に来ていた。