[ 5/83 ]
「君!!待ってくれ……」
遅れてフレンが路地に駆け込んだ。惨状を目にして慌てて足を止める。
「いてて……」
「おいこら!気をつけろ!」
「ご、ごめんなさい……」
男たちは「全く、近頃のガキは……」とブツブツ言いながら倒れたバケツを取り上げた。
「……フィナ? どうしてここに……大丈夫かい!?」
フレンが慌てて私の傍に屈んだ。
「こんなに濡れて……怪我は無いかい?」
「うん」
私は、普段の子供の姿に戻っていた。
水をかぶると本来の大人の姿に。
そして、お湯をかぶると元の子供の姿になる。
今のところギルドの三人にしか教えていない、私の秘密だ。
どういう仕組みなのか、どうしてこうなってしまうのか。自分でも全く分からない。
けれど、地球からこのテルカ・リュミレースにやってきた、それが既に信じられないような事なのだ。深く考えても仕方が無い。
フレンは地面に座った状態だった私を立たせると、近くに落ちていたバラの花束に目を向けた。
「フィナ……ここを、黒い髪のお姉さんが通らなかったかい?」
「えっ」
そう尋ねるフレンはもの悲しげで、私の罪悪感をズキンと刺激した。
「わ、わかんない」
「そう……」
彼は花束を拾い上げ、無言でそれを見つめた。
彼女が捨てていった、と思っているのだろうか。
「フレン、そのお花綺麗だね」
「ん、そうかい?」
「うん。落し物なの?」
「……うん。そうみたいだ」
「きっと、落とした人はがっかりしてるね」
「ふふ。そうだね」
彼の表情が少し明るくなった。よかった。
「フィナ。よかったらこのお花、君にあげるよ」
「ほんと?」
さっきと同じように、目の前に花束が差し出された。子供の姿の時なら、色々考える必要は無い。ごまかしも、嘘をつく必要も無い。
両手で抱えるようにそれを受け取り、素直な気持ちを伝えた。
「ありがとう。フレンだいすき」