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「じゃあ、そのギルドが来るまでお城を回ってくる」
「駄目だ。そんな可愛い格好で出歩いたら、人攫いに遭うかもしれない!」
どれだけ城の警備はザルなんだろう。
「やだ」
カン。
「わ」
フレンが怯んだ隙に、背を向けて逃げ出した。が、あっという間に両脇を掴まれ、宙に浮いた。
「ほうら。もう逃げられないよ、小悪魔さん」
そのままぎゅうっと彼の腕に閉じ込められた。これじゃあ、お菓子を探す旅はここで頓挫してしまう。
「やー!」
「こら、暴れちゃ駄目だ」
「ああ、やっと見つけました」
ノンビリとした、けれども上品な声に顔を上げた。金の髪に翠の目、そしてトンガリ帽子を被り黒のローブを纏った、青年と少年の間のような風貌の男性。
「ヨーデル殿下……? その服装は……」
フレンの問に、彼はふわりと微笑んだ。
「魔女です」
「魔女?」
「ええ」
フレンは何か言いたそうな顔をした。多分、魔“女”の部分に突っ込みたいが、失礼に当たるので我慢しているのだろう。
「フレン。お菓子をくれなきゃイタズラしますよ?」
「も、申し訳ありません殿下!! 生憎と御菓子の持ち合わせが……!」
あまりの態度の違いにムッとした。私がそう尋ねたときは、全然聞いてくれなかったのに。
「そうですか……仕方ありません。イタズラしてしまいましょう」
ヨーデルはいつもと変わらない笑顔を浮かべた。フレンは困惑した表情で「はあ……?」と曖昧な返事を返すだけ。
何を隠そう、私の悪魔の衣装を用意したのもヨーデルだ。彼ならきっと、ハロウィーンらしいイタズラを披露してくれるはず。
期待を込めた眼差しを送っていると、何故か私に向かって手が伸びた。
「では、私の使い魔、フィナの力を借りましょう」
わけが分からず、ぽかんと彼を見上げた。彼は相変わらず穏やかな笑顔を浮かべている。
つまり実行犯は私になるのだろうか。そうだとしても、一体何をすれば良いのか……
そう思っている間に、ヨーデルは私をフレンと向かい合うように抱きなおした。
「そーれ」
「へ」
楽しそうな声とともに、高い高いの要領で前方に押し出される。
真正面に立つフレンの顔が近付いて―――ぺた、と唇に何かが触れた。
「ふふふ。イタズラ完了です」
フレンの顔が離れた。彼はビー玉のような目を見開いて、びっくりした顔をしている。
一体何処に触れたのか。可能性が頭の中で渦巻いている。けれど、あまりに突然の事だったので、自分でも確信がもてない。そうであって欲しいような、違う方がいいような……よく分からない。
「ではフレン。フィナをお借りしますね」
ぐるりと視点が変わって、目の前は白く長い廊下になった。背後から、フレンの焦った声が聞こえる。
「ま、待ってくださいヨーデル殿下!! イタズラって……私以外にこういう真似はお止めください!」
「しかし……お菓子が無ければイタズラをするのが決まりですし……」
「御菓子ですね!? 分かりました!!」
その後、大量のお菓子を仕入れてきたフレンは、私とヨーデルの行く先に先回りし、お菓子を配って回ったのだった。
おしまい。