ティポ
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「なんだい、フィナの秘密って」
『あのねーフィナはフレンのお』
「うらー!!」
咄嗟にそいつを地面に叩き付けた。フレンは私の突然の奇行に、「フィナ!?」と声を上げて驚いた。
「さっき“ぶつけるのは可哀想”って言ってたじゃないか!」
「気が変わったの!」
「だからって、そんな乱暴な扱いはしちゃいけないよ!」
「〜〜っ」
フレンは私の気持ちを分かってくれていない。突然、頭の中を勝手に読まれて、隠してた事を暴露されて、冷静でいられるわけがない。そうだ、私が悪いんじゃない。それなのに、何故私を責めるのだろう。
納得できない気持ちが膨れて、鼻や、目の奥が熱くなった。
『謝れーー! 理由も知らないくせに勝手なこというな!』
「うわっ、君、平気なのかい?」
ぬいぐるみは何事も無かったかのように、再び宙に浮いていた。
『ボクはちっとやそっとじゃ壊れないもんねー!』
「そう……でも、君自身がどう思おうと、物は大切に扱うべきなんだ。魔物が現れたときに使用するならともかく、何も無いときにあんな扱い方をするなんて」
『フィナの気持ちも知らずに説教するなー! フィナはフレンに秘密を知られたくなかっただけなのに』
「それは……確かに、酌量の余地はある。けれど、そんなに知られたくない秘密ってなんだい?」
フレンが屈んで、私の顔を覗き込んだ。なんだかそれが腹立たしくて、つんと顔を逸らした。
「僕は、君との間に隠し事なんてしたくない。君の全てを知っていたいんだ」
『うわ、なんかエロい〜』
「へ、変な誤解しないでくれ! 子供の行動を把握するのは、親の義務だ」
『へー……義務だから、フレンくんはフィナに構ってるんだ〜?』
「随分意地悪な聞き方だね。そもそもに相手への好意が無ければ、義務を負おうとも、果たそうとも思わないんじゃないかな」
『なにそれ〜』
「ちょっと難しかったかな。僕はフィナが好きってことだよ」
呆然とフレンを見上げた。さっきまで胸中で幅を利かせていた、イライラとした気持ちが急に小さくなった。
「だから、フィナの事は何でも知っていたい。そのために、賞与をはたいて使用者の思考を読むぬいぐるみを……」
私はフレンの顔面に向かってぬいぐるみをぶつけた。
おしまい。