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つまり、一目ぼれ。
まさか。
え、なんで?
うちの子に似てると思ってただけじゃなかったのか。

「どうぞ。お近付きの印に」

促されるまま、花束を受け取った。こんなものを貰ったのは、生まれて初めてだ。
ぼうっとフレンを見つめる。彼は恥ずかしそうに頬を染め、「あの……」と初心な中学生のように言葉を紡いだ。

「もしよろしかったら……貴方のお名前をお聞かせ願えませんか?」

「へ……あ、はい」

鈍ったままの頭を動かし、自分の名前を探し出す。
私の名前は…………『フィナ』だ。
名乗れる訳が無かった。流石のフレンも、名前まで一緒では怪しむに決まってる。

「その………えっと………」

まごつく私を、フレンは期待の篭った瞳で見つめた。
彼の碧眼が、宝石のようにキラキラ輝いている。あまりの綺麗さに見惚れそうになった。これが、恋をしている人の目なのか。

「ああ〜ら、恥ずかしがりやさんねえ。今にも逃げ出しそう!」

出し抜けにジュディスが言った。
逃げ出す……そうか! これは、彼女からの「逃げちゃいなさい」というメッセージだ。

「す、すみませんっ!」

両手で顔を覆い、「恥ずかしいです!」アピールをしながらフレンの前から脱走した。そのまま人ごみに紛れ込み、彼を撒こうと市場通りを駆け抜ける。後ろからはガッシャガッシャと鎧の音が追いかけて来ていた。

「騎士団長様が血相を変えて走っているぞ!」
「フレン様!きっと極悪人を追っているんだわ!」
「オイ!皆道をあけろ!」

モーゼの奇跡の如く人垣が割れた。彼の道を遮ってはならぬと人々が脇に避けていくのだ。
彼の人望の厚さに度肝を抜かれる。だが、それでも私は走り続けた。
こうなったら、分かりにくい横道に逸れるしかない。下町は彼のテリトリーだ。このまま商業地域から貴族街にかけて逃げ回っていれば、こちらにも分があるはず。
私は目に入った細い路地に駆け込んだ。

「ほら、お湯が沸いたぞ!」
「サンキュー!やっぱりお湯を使った方が、汚れが綺麗に落ちるぜ!!」

目の前で、二人の男が壁の汚れを落としていた。
細い路地に大の大人が二人。避けられるわけが無かった。
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