ティポ
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「なあに、これ」
フレンに手渡されたのは、毒々しい紫カラーの、ひょうたんみたいなぬいぐるみだった。耳らしき一対の飾りと、目玉がついているので、一応動物を模しているらしい。
「魔術の威力を上げたり、武器として魔物にぶつけたりできるぬいぐるみだよ」
「ぶつけるの? かわいそう」
「ふふ、そうだね。じゃあ、魔術用に使おうか」
「うん」
「えっと、まずスイッチを……」
フレンは説明書を片手にぬいぐるみに触れた。すると、ピポ、という音と共に目玉に光が宿った。少し気味が悪い。
『こんにちは! まずはボクに名前をつけてね!』
「しゃべった!」
『ボクの名前は“シャベッタ”だね!』
「ちがう!!」
助けを求めてフレンを見ると、彼は慌てて説明書を捲り、名付けをやり直す方法を探した。
「ごめん、フィナ。ちょっと待ってね」
『君の名前はフィナだね!』
「えっ」
こんな会話で名前を特定されるなんて。思いのほか高性能だ。
一体どんな仕組みなのだろう、と裏返して見ると、突然ぬいぐるみが手から離れた。
「と、飛んでる!」
『ボクは飛べるんだよ、フィナ!』
まるでクマバチのように、大きな体でフヨフヨ自由に浮いている。まだ説明書に没頭しているフレンは気付いていない。
フレンが持ってくるものは、いつも微妙に可愛くなかったり美味しくなかったり、ズレたものが多いけれど、今回はなかなかの当りだ。
『フレンもたまにはいいもの持って来るんだな〜』
「えっ」
『女の子の好みってのが分かってないんだよね〜。レギン様の伝記とか、誰が喜ぶかっちゅーねん!』
まじまじとぬいぐるみを見つめた。まるで私の心の声を代弁しているかのような台詞だ。
急に怖くなって、フレンを振り向いた。彼はまだ説明書を読んでいた。
「フレン! このぬいぐるみ、なんか変!」
『変とはなんだーっ! 体だけ子供なフィナに言われたくないぞー!』
あまりの驚きに硬直してしまった。こんなことまで知っているなんて―――いや、きっとこのぬいぐるみは、私の心というか、頭の中身を勝手に読んでいるのだ。
このままにしておいたら、私の秘密を全部バラされてしまう!
焦った私は、目の前で悠々と浮かんでいるぬいぐるみに飛び掛り、逃げないようにがっちりと捕まえた。
『きゃー! ここままじゃ、フィナの秘密をバラされちゃうー!』
「えっ、フィナの秘密?」
何故かフレンがそこにだけ強い興味を見せた。私がこっそり悪さをしているとでも思っているのだろうか。