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そんな目で見られても困る。私は彼と仲良くする気は無いし、これからも酷い対応をするのだ。そんな純粋な目を向けられたら、余計罪悪感を感じてしまう。
慌てて顔を逸らし、憎まれ口の一つでも叩いてやろうと台詞を探す、と
がしっ!
と、効果音が聞こえそうなくらい力強い手が私の両耳に被さり、顔を固定した。
「そらさないでくれ」
「はぃ?」
驚く私を他所に、彼は囁くように言葉を続けた。
「僕は、もっと君の表情を見ていたいんだ」
とかなんとか言いながら、切なげな顔をどんどん近付けてくる。
フレンと至近距離でにらめっこした事はある。けど、あの時はふざけて笑い合っていたし、こんなに真剣で、どこか色香まで漂う表情は見たことが無かった。
頭が働かなくて、手足も動かない。心臓がしきりに叫んでいる。
これは、
もしや、
ヤバイんじゃ。
「蒼破ァ!!」
「月光!」
「森羅万象バッグ!」
横から上から後ろから、凛々の明星の総攻撃がフレンに襲い掛かった。
彼はすかさずバックステップでそれらを避ける。いや、カロルの投げたイカだけが頭にヒットしてへばり付いている。シュールだ。
今がチャンスとばかりにフレンから距離を取ると、横にストンとジュディスが舞い降りた。
「残念ね。ゲームオーバーよ」
彼女の言葉にフレンは顔色を変えた。
「待ってくれ! 僕はまだ……」
「往生際が悪いぞ」
まるでどこかの悪役のように、物陰からユーリとカロルが姿を現した。私とジュディスの前に立ち、ユーリは鞘に納まった剣をフレンに向ける。
「契約違反だ。ウチのお嬢さんを返してもらうぞ」
「待ってくれユーリ。僕はだた……」
「うっせえ。あんな顔で迫っておいて下心が無かったとは言わせねーぞ」
「う……」
フレンが頬を染めてたじろいだ。本当に変な事をする気だったらしい。
「つい、体が勝手に……」
「まあ、呆れた言い訳ね」
「嘘じゃない。抗えなかったんだ。彼女が、あまりにも魅力的で……」
彼が私に目を向ける。切なげで、私が遠くにいることが耐えられないとでも言いたげだった。
「だからって、公衆の面前であれは無いよ」
「カロル先生の言うとおりだ。お前、熱上げすぎなんだよ」
「ユーリに僕の気持ちは理解できないよ」
「ああ?」
話し合いを放棄するような物言いに、ユーリが苛立った様子で方眉を上げた。
フレンはそんな彼を挑むように睨みつけ、
「想って想って思い焦がれて毎日彼女の事ばかりを考え続けて、ようやく彼女とお近づきになれたんだ。己の制御が利くわけないじゃないか!!」
フレンのとんでもない告白に、一瞬にして場が凍りついた。
やばい。やばすぎる。彼がこんなに盲目で、追い詰められていたなんて。私が彼を露骨に避けていた所為だろうか。
ある程度マトモに相手をした方が良かったのかもしれない、と後悔してみるが後の祭りだ。