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「帝都ざーふぃあすの……」
「ワオーン!」
聞き覚えのある鳴き声に振り向くと、ラピードが足元に座っていた。
「どうしたの? ラピード」
「ワフッ!」
彼は立ち上がると、花束の端っこに噛み付いた。
「もしかして、ラピードが預かってくれるの?」
「ワンッ」
「そっか。じゃあお願い」
「クーン」
花束を咥えると、ラピードは近くの茂みまで走っていった。多分、あそこにユーリ達が隠れているんだろう。
「ラピードがいてくれてよかったです」
そう言ってフレンを見上げると、彼は眉間に皺を寄せて茂みを睨んでいた。
*
「危なかったわね」
「ったく、こんなに早く仕掛けてくるとはな……」
「ねえ、フレンがこっち睨んでるよ……」
「ハハ、妨害されて不機嫌になっちまったか。もう少しで名前と住所を聞き出せたのにな」
「フィナも結構迂闊だよね。大丈夫かなあ」
「だからこそ私達がいるんじゃない」
「そういうこった」
*
とりあえず、帝都を散策することになった。ある程度時間を潰してから、レストランに入る予定だ。
いくらデートといえども、私は彼と仲良くする気は無い。普段どおり無愛想に行こうと方針を決め、彼との会話に挑んだ。
「騎士団長になった今では現場に出る機会が少なくなってね。剣が振るえなくて寂しいんだ」
「そうですか」
「君も剣を使うんだよね? ユーリから聞いたよ」
「はい」
「それに、精霊術も操れるそうじゃないか。僕はまだ精霊術に慣れていなくて……良かったらご指南願いたいな」
「リタさんに習ったらいいと思います」
「君は、リタに精霊術を習ったのかい?」
「ええ」
「そうか。彼女は今や精霊研究の第一人者だ。彼女に指導してもらったのなら、君の腕もきっと素晴らしいんだろうね。もしかして、エステリーゼ様とも面識があるのかな?」
「いちおう」
「そうか。あの方はずっとザーフィアス城で生活していた為に、同年代の友人が少ないんだ。是非仲良くしてあげて欲しいな」
「はい」
「その……今日の服も素敵だね。とても似合っているよ」
「どうも」
「うん、すごく素敵だ。嬉しいな。君を連れて街を歩けるなんて」
おかしい。こんなにけんもほろろで取り付く島を与えていないのに、彼のテンションは下がるどころか上がるばっかりだ。
さっき口ごもったのも話題に困ったのでは無くて、ただ照れていただけだった。もっと私から距離を取って欲しいのに、ずんずん歩み寄られてしまう。