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「違うんだ! 僕はたとえ君が未熟だったとしても全然構わなくて、むしろこれから一緒に成長していけたらなって思って! それで、階段っていう表現を……そう、君に幼稚な欠点があったっていいんだ! むしろ僕は君のそんな所だって知りたいし、それを含めて君を愛する自信がある! その……だから……」
次に来る言葉は予想がつく。もう既に何度も何度も言われている。彼が私に会いに来る理由は、全てここに帰結するのだ。
「僕と、結婚を前提にお付き合いしてください!」
「お断りします」
私の正体が彼にバレたら、きっと今の生活は続けられない。彼の娘ではいられなくなってしまうだろうし、彼との関係もぎこちなくなってしまうと思う。
だから、私は彼の気持ちを受け入れることは出来ない。
私の返事を聞いて、彼はしゅんと肩を落とした。
「そう……でも、僕は諦めないよ。君を手に入れるまで、決して」
心臓がドキリとした。剣の切っ先を向けられたような、鋭い眼光が私を射抜く。
彼は本当に、怖いくらいに真剣だ。気持ちを疑う余地なんてない。最初は彼が傷つくのを怖れて、中々はっきりとした拒絶を伝える事が出来なかったけれど、今ではそれが杞憂だと分かる。
彼は、断られたってへこたれないのだ。
自分の何が悪かったのかを考え、次会った時にはそれを改善してくる。常に仕事脳オン状態の彼らしいといえばらしいのだけれど、正直言ってフレンじゃなかったらウザイことこの上ない。
と、彼がふわっと表情を和らげた。
「ところで、お昼はまだだよね? 一緒にどうかな」
「行くなら二人だけで行けよ。俺らは別のとこで食ってくるから」
「なんで!?」
「お前の名前を出さずに会話するのが大変なんだよ」
「そうか。なら早く僕にも彼女の名前を教えてくれ」
「教えたら騎士団の情報網使って素性を調べ尽くすだろ」
「嫌だなあ。住所までだよ。手紙とプレゼントを送るのに必要だからね」
また一つ、フレン の意外な一面を知ってしまった。
どうも彼は、小さい私相手には『父親の顔』しか見せないようだ。大きい私相手に見せる、強引で少し意地悪な顔は奥へ隠してしまっている。どちらかというと、後者が彼の素に近いのではないだろうか。
そんな事を思いながら彼を見上げた。彼は私の視線に気がつくと、「どうかしたのかい」と優しく微笑みながら“小さい私”を抱き上げた。
「ねえフレン」
「なんだいフィナ」
「フレンって、どんな女の人が好きなの?」
ふと気になって訪ねてみた。彼は大きい私のどこに惚れたのだろうか。
「そうだなあ。フィナみたいな可愛い人が好きだよ」
もの凄く納得してしまった。と同時に彼に「可愛い」と言って貰えた嬉しさで頬が熱くなった。
この姿のときは、彼の言葉をすんなり受け入れる事が出来る。彼の言う事は、何でも正しいような気がしてくるのだ。
「フィナはどんな人が好きなんだい?」
「フレン」
「そっか。嬉しいな」
彼は本当に嬉しそうに笑った。恥ずかしくなった私は、彼の胸に顔を埋めた。
大きい私がこう言ったら、彼はどんな反応をするのだろう。私の知らない顔で大喜びするのだろうか。