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太陽がそろそろ南中しようかという時分。もうお昼休みの時間だなあとお城を見上げると、やっぱり来た。
貴族街から伸びる階段を駆け下りる白銀の鎧、たなびく青いマント。その手には今日の贈り物であろう、黄色い一輪の花が握られていた。お城に花を飾りに来る業者から買っているのだそうだ。
私は露骨に眉を顰め、いや〜な顔をして隣のジュディスの後ろに隠れた。彼女は子供を見る母親のように、しょうがないわね、と笑った。

「あ、フレンだ」

彼の姿に気付いたカロルが空を仰ぐ。

「ほれ、フィナ。愛しのフレンが来たぞ」

ユーリがからかって言う。
間違ってはいないけど、今は違う。
フレンが愛しの家族なのは私が“小さい”ときの話で、大きい姿の今はただの……ただの……なんだろう。
微かに息を弾ませて、フレンが私とジュディスの前にやってきた。「やあ」と暑さも吹き飛ばす爽やかな笑顔で挨拶をする。それに「どうも」と辛気臭い返事を返して、ぷいっと横を向いてやった。その間に、ジュディスがいじわるにもその場を退いてしまった。

「今日は、とてもよい天気だね」

「……そうですね」

「これを君に」

差し出されたのは彼の持っていた黄色い花。茶色い胚珠と、それを囲む黄色い花弁。小型のヒマワリだった。花言葉は確か、『あなたを見つめる』。

「君の言うとおり、花束はやめたよ。これなら受け取ってくれるよね?」

そう自慢げに微笑む彼が憎らしい。仕方なくヒマワリに手を伸ばし、両手で受け取った。途端にヒマワリ顔負けの満面の笑みが私に向けられる。

「うん。やっぱりこの花は君にぴったりだ。君の黒髪にとてもよく合う」

思わず自分の髪を庇った。フレンなら、髪を触ってくると思ったのだ。けれど彼はその場から動くことなく、ニコニコと私を眺めていた。
軽く肩透かしを食らう。小さい私が相手なら、絶対に触ってきたのに。その辺は彼も弁えているみたいだ。

「……じゃあ、ユーリにもぴったりですね」

このまま受け取ったら彼の勝ちになってしまう。なので、少しだけ反撃してやった。

「ユーリには似合わないよ。彼には君のような可愛らしさが無いからね」

「私、可愛くないです」

「そんな事無いよ。その無垢な感じがとっても可愛いよ」

「そりゃ子供は無垢だろ」

突然割り込んだユーリに、フレンは厳しい視線を向けた。

「ユーリ。子供だなんて彼女に失礼だろう」

「事実ですよ。まだ成人してませんし」

フレンは焦った様子で私を見た。

「年齢なんて関係ないよ。君はとっても魅力的な女性だ。子供だというなら、僕と一緒に大人の階段を上っ……あ、いや! 変な意味じゃなくてその、一緒に成長していこうって意味で!」

失言に気付いた彼は、顔を真っ赤にしてうろたえ始めた。これ見よがしにそっぽを向くと、必死の弁解が洪水となって押し寄せた。
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