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「ふぁいあ〜!!」
拳大の火の玉が、背後からフレンを襲った。彼は振り向きざまに剣を薙ぎ、それを消してしまう。
「なにを、するんだ」
彼の声が、またドスの利いた低いものになった。
「フィナに当たったらどうする! 彼女に何かあったら、どう責任を取るつもりだ!?」
「みゅうう!」
火の玉を出した犯人はフレンの凄みに驚き、小動物らしい素早さで彼から距離を取った。
フレンは肩を怒らせながらミュウの方へ足を踏み出す。
彼の興味があっちへ向いたことに安心し、私はその場にへたり込んだ。
呼吸と鼓動が早い。汗も出ている。今になって体が震えてきた。
フレンが怖いと思う日が来るなんて、思わなかった。
彼は私にとって、安心と安全の象徴だった。彼がいれば全てが平気で、大丈夫なのだ。
そんな彼がいない。いなくなってしまった。今の彼は違う。怖い。
強く目を瞑った。あんなフレンは見たくなかった。
けれど、声はどうしても耳に入ってきた。ミュウに向かって叫んでいる声が聞こえる。
「フィナが居なくなったら、誰が僕を愛してくれるというんだい!? 彼女はこの世で唯一、無条件で僕を慕ってくれる人間だ。僕の能力や、騎士団での地位なんて気にしない。ずっと僕のそばに居て、僕の心の平穏を保ってくれる。僕には彼女しかいないんだ!彼女を失うなんて、そんな悪夢は絶対にあってはならないことだ!!」
「みゅうう! この人何言ってるですの! 幼女相手にどんだけですの!!」
「フレン……」
目を開けた。予想通り、フレンとミュウが地獄の追いかけっこをしている。
剣を振り回す彼の姿は怖い。けれど、彼の言葉には一貫性があった。
彼は、ただ私を守ろうとしているんだ。
マモノの所為で見境が無くなっているけれど、根本は変わっていない。彼はどんなときでも私を守ってくれる。
私の心に光が差した。
彼はあの日の約束どおり、私を守ろうとしてくれている。
私には、彼を守るほどの力は無い。
なら、せめて私は彼を助けなければ。
右手に魔法のステッキを握り、空に向かって掲げた。
「シャルリーアシュルクヴェイティトポン!」
ぴろりろり〜ん☆
自然界にはありえない音が鳴り響いた。空色の星から光が溢れ、世界が一瞬真っ白になる。
次に視界が開けたときは、なんだか世界の見え方が変わっていた。
例えるなら、かかとの高い靴を履いたような。
「フィナさん! やったですの! 変身できたですの!」
「変身?」
自分の体を見下ろすと、ヘソが見えた。
「なにこれ!?」