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私はすぐに異常を感じ取った。普段の彼は、私の手を無理に引っ張ったりしない。手を握って、持ち上げて、それからゆっくり、私のついて行けるペースで歩き出すのだ。
「フレン? どうしたの?」
「……どういうことだい? 僕はいつもと変わりないよ?」
そんなことはない。そう言いたかったが、怖くて言い返せなかった。
安心するはずの彼の笑顔に違和感を感じる。何故だか冷たくて、背筋が凍える。
なだらかな曲線を描く眉、細められた碧い目、口角の上がった唇……どれも、普段と変わりが無いはずだった。
「フィナこそどうしたんだい? 顔が青いよ。なにか怖い目にあったのかい? 安心して。君は僕が守る」
「うん……」
フレンの言葉に、少しホッとした。
おかしいのは彼じゃない。私だ。それなら、彼の笑顔に違和感を感じた理由も説明できる。
きっと、この変な動物に色々言われたから、色眼鏡で彼を見てしまったのだ。フレンが変なわけじゃない。彼は、私を守ってくれるはずなのだから―――
「手を離すですのこのロリペド野郎!!」
私の腕から抜け出したミュウが、勢い良くジャンプした。それはまるでパチンコ玉のように速かった。あの短い足でありえない程のバネだ。
彼はその勢いでフレンの顎に頭突きを見舞い、反動で投げ出された空中でくるりと回転すると、体操選手顔負けの一歩もずれない見事な着地を披露した。
「これぞミュウアタックですの! フィナさん、大丈夫ですの?」
彼は褒めてといわんばかりに目を輝かせて私を見上げた。
確かにフレンの手は離れた。けど。
「ひどい」
「みゅ!?」
「フレン、大丈夫?」
ショックを受けているらしい小動物は無視し、尻餅をついているフレンの横にひざまづいた。
顎を押さえて痛そうだ。
「痛いの? 大丈夫? どうしよう」
救急セットも、患部を冷やせるようなものも持っていない。私が魔術師だったら、魔術で彼を簡単に治してしまえるのに。
そういえば。
私は脇に挟んでいた魔法ステッキを手に持った。
ミュウの言う魔法の力で、彼の治療はできないだろうか。
天辺の星は相変わらずクルクル回っている。確かにボタン操作で回っているわけではないらしい。
「ねえ、怪我を治す魔法ってないの?」
ミュウを振り向いて尋ねると、彼は滝の涙を流して悲しんでいる最中だった。
少し胸が痛む。
結果はどうあれ、彼は私を助けようとしてくれたのだ。お礼くらい言ったほうが良いかもしれない。
口をモゴモゴさせて言葉を探していると、不意にフレンが立ち上がった。
もう大丈夫なのかとホッとして彼を見上げると、なにやら日の光を反射する物が見えた。