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ガシャーーーン!!
ミュウの甲高い声に混ざって、陶器が割れる音がした。コップを割ったときより大きくて低い。きっと何か大きなものが割れたのだ。
音のした方―――建物の影―――を見ると、ふらりと人影が現れた。
「あ」
それは知っている人物だった。太陽にきらめく金色の短髪、がっしりした鎧、浅黄色の胸当て―――
「フレン!」
私の保護者、フレンだった。
きっと、なかなか帰ってこない私を心配して探しに来てくれたのだろう。さっさと先に帰ってしまったテッドとは雲泥の差だ。
嬉しくなってフレンに向かって駆け出した。彼もこちらに気付いて、ホッとした笑顔を浮かべる。
「待つですの! 様子がおかしいですの!」
ミュウが私の前に回りこんで立ちふさがった。小さい体で両腕を開き、身を挺している様はとても健気だ。
心配してくれるのはありがたいが、この子はフレンの事を分かっていない。
「フレンは元々、時々変だよ」
普段は真面目で誠実な完璧イケメンだが、たまにもの凄くずれた事や変な理論を飛ばすのだ。
「元も子もないですの!とにかく近付いちゃだめですの!!」
「平気なの!」
足元でなんやかんや言っているミュウを一喝し、彼を避けてフレンに向かって走った。
フレンに近付いちゃいけないのは、彼が風邪を引いたときだけだ。それ以外ではありえない。
そう。彼が私に危害を加えるなんて事は絶対に無い。彼はいつも私を守ってくれるのだから。
「ダメですの〜!」
今度は私の足にしがみついてきた。このまま走っては、この子に怪我をさせてしまう。
仕方なく立ち止まってミュウを抱き上げた。
「見るですの!」
私の前に掲げたのは、さっきの星の魔法ステッキだった。天辺の空色の星の部分が、くるくると回転している。
こんな機能あったんだ。
「何処にボタンがあるの?」
「ボタン操作じゃないですの!これはマモノを探知しているですの!」
周囲を確認してみるが、結界魔導器におかしい所は無い。魔物が入り込んだら起こるであろう、大騒ぎも起きていない。
「いないよ」
「マモノは人に取り付いて姿を隠すですの!」
説明を聞いている間に、星の回転が速くなった。
「どうしたんだい? その動物は」
目の前にフレンがいた。屈んでミュウを見つめ、首をかしげている。
「そこにいたの」
「誰かのペットかな……まあ、そんな事はどうでもいい。早く帰ろう、フィナ」
いつもよりも強引に手を引かれた。驚いて彼を見上げる。彼の顔には、笑顔が張り付いていた。