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人間にも、電源があるのかもしれない。僕は電力の供給が断たれてしまったかのように停止した。ただ半開きのドアが目に映り、身体も固まって動かない。ショックで回路の一部が切れてしまったのだろう。
追いかけようか。けれど逃げたウサギを追いかけては、余計怖がらせてしまう。

「まあ、これでも飲んで落ち着けよ」

ユーリが僕の前に、冷めた煎茶が入ったマグカップを差し出した。自分のカップが元の位置にあるのを確認し、次に彼女がいた席を見た。

「それはフィナのカップじゃないか!!」

取り戻そうと腕を振ったが、彼は軽く身体を捻って避けてしまった。

「なんだよ。俺がいなけりゃ僥倖とばかりに飲み干してただろ」

「ユーリじゃないんだ、そんなことはしない!!」

「んだよ、俺だってそんなストーカーみてえな自慰行為しねーぞ」

「……もういい。部活はどうした……って何で飲むんだ!?」

「のど乾いてんだよ。俺は思春期真っ只中のお前と違って、誰が口つけたとか気にしねーの」

自分の年齢を棚に上げた発言に、僕は頭を抱えた。

「君だって思春期真っ只中だろう!! 断っておくが、フィナに余計な事は吹き込むな」

「分かってるよ。お前はちゃんと保健体育も満点だもんな。俺がわざわざ教えなくても……」

「そういう意味じゃない!!」

こちらが声を荒げても、ユーリは何処吹く風。腹を立てる僕の顔を見て、何故か満足そうに口角を吊り上げた。

「お前キャラ変わってんじゃねーのか。冷静沈着な生徒会長」

自覚していなかった事を指摘され、顔がわずかに熱くなる。
心当たりはあった。彼女が目の前に立ったときから、ずっと落ち着かなかった。余裕なんてものを、持つ余裕が無かった。

「だって……フィナがいたんだ」

長い間、渇望していた再会。彼女と別れたときから、ずっと待ち望んでいた瞬間。
それは見慣れた世界が輝いて見えるほど、幸せな感覚を僕にもたらした。
けれど、それは僕の一方的な想いだ。彼女は僕の事を知らない。誰なのかわからない。きっと、見ず知らずの僕が近付いてくることを不審に思っていただろう。
生徒会室を走り出て行った、彼女の後ろ姿を呼び起こし、僕は心臓をちぎり取られるような思いに囚われた。
嫌われてしまっただろうか。怖がらせてしまっただろうか。もう二度と、僕と口を利いてくれなかったらどうしよう。
頭を抱えて、床を転げまわりたい気分だった。

「よかったな、フィナと会えて」

ユーリは変わらず笑顔だった。

「そう、だね」

彼の言うとおりだ。会えてよかった。会えただけでもありがたい。彼女が得るはずだった僕に関する記憶は、これから作っていけば良い。そうして、以前のような関係を再構築する。そのためには……

「ユーリ。協力してくれないか」

「ん?」

「フィナをどうしても生徒会に入れたいんだ」

手段は、選ばない。




*続かない。
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