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「―――すみません」
「……そうか。残念だな」
笑ってごまかしているが、本当に気落ちしている様子だった。申し訳なさが津波の如く押し寄せる。ああ、やはり最初から彼についてこなければよかったのだ。そうすれば、余計な期待を持たせる事もなかったのだから。
「気が変わったらいつでも言ってくれ。歓迎するよ。友達を誘っても全然構わないから」
「はい」
「ええっと、そうだ! 部活の方はもう決まっているのかな?」
「まだです」
「そう。よかった。僕は剣道部に入っているんだけど、君もどうかな? 初心者でも大丈夫だし、部員も楽しい、良い人たちばかりなんだ! あ、マネージャーでも構わないよ! 今はいないけれど、ミーティングで提案すればすぐ通す……いや、通るから!」
「えっと……」
どうやら彼は、私を帰したくないらしい。焦った様子で次々と話題を口にした。
「良かったら見学するかい? 今も練習しているはずだから、僕が案内するよ」
「ええっと……そう、ですね……」
正直なところ、剣道にも興味は無かった。
これ以上期待を持たせては駄目だ。きっぱり断って、他の、興味のもてる部活の見学に行こう。
そう心に決めて彼を見た。
「おい、フレン!! お前何やってんだよ、待たせやがっ……あ?」
ドアを蹴破って立っていたのは、竹刀を背負った黒髪の男子生徒だった。恐らくフレン会長と同じ三年生だろう。真面目な会長とは反対に、ノーネクタイでブレザーの前をだらしなく開き、ローファーではなく左右の長さが違う個性的なブーツを履いていた。
会長の友達だろうか。それにしては雰囲気というか、真面目と不真面目、スポーツマンと文化系といった意味で人種が違う。
黒髪の彼は机を挟んで反対側を歩き、私の正面に回ってきた。目が合いそうになって、思わず俯く。目が合ったら怒られるような気がしたのだ。
「あの、それじゃあ私、失礼します」
椅子の横に置いていた鞄を掴み、胸に抱えて立ち上がった。
「あっ、待ってくれ! えっと、ほら、まだお茶も残ってるし……」
「いえ、会長も約束があるみたいですから……」
「もしかして俺か?」
己を指差すその腕は、袖が肘上まで捲り上げられていた。
「気にすんなって。お前がいたなら仕方ねえよ。茶くらい付き合ってやってくれ」
どういう意味だろう。彼が私を見る目も、会長と同じ、気心の知れた仲間を見るような、温かい目だった。
「すまない、ユーリ。そっちに向かう途中で彼女と会ってね……」
「それで早速生徒会室に連れ込んだのか? いきなり密室に二人きりとは、お前も手が早えーな。どこまでやった?」
「なっ!! 僕は何も……!」
会長の顔が面白い程赤く染まった。
そうか。考えもしなかったけれど、高校生で、男女が二人きり、というのは……そういう恐れもあったのか。
顔が熱くなった。心臓も遅れて騒ぎ出した。どうしようもなく恥ずかしくなって、挨拶もせずに部屋を飛び出してしまった。
「あっ! フィナ!! 待ってくれ!」
彼の声が追い縋ってきたが、構わず近くの階段を駆け下りた。