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友達は吹奏楽部へ逃げてしまった。
私も彼女も、学級委員や生徒会なんていうまとめ役は合わない性分だった。私も断って逃げてしまえばよかったのだが、声をかけてもらった手前、無碍にするのも気が引けた。それに、私は彼のことが気になっていた。もちろん、それは彼が私の名前を知っていたからで、格好良いから好きになったとか、そういう気持ちからではなかった。

「どうぞ」

私の前に、マグカップに入った煎茶が置かれた。どうもと軽く頭を下げると、パイプ椅子が微かに音を立てた。

「お菓子もあるよ。好きだろう? 甘いもの」

「はい。ありがとうございます」

マグカップの後ろに置かれたお菓子皿には、アルファベットチョコレートとクッキーのアソートが乗っていた。
彼も自分のカップを持ち、私の隣の席に着いた。四角く並んだテーブルの角に座っているので、真横ではなく斜めの位置だ。

「改めまして、僕は生徒会長のフレン・シーフォ。よろしくお願いするよ」

両膝に手を置いて頭を下げる。彼のお辞儀は武士のようだった。つられて私も頭を下げる。
フレン・シーフォ。聞いた事が無い、いや、正確には入学式で聞いているはずだ。自分の不真面目さが、急にうらめしくなった。

「それじゃあ、生徒会の活動について説明するね」

顔を上げ、ぱっと笑うと一枚のプリントを取り出した。学事暦だった。

「生徒会は、よりよい学校生活を目指して、生徒自身が活動する場なんだ。体育祭や文化祭も、学校生活を楽しくするために生徒会が企画・運営するイベントなんだよ」

「……学校がするんじゃないの?」

「うん。先生方は僕達に指導はするけど、実際に運営するのは僕達生徒会と、行事のたびに組織される実行委員会なんだ。そして、参加するのは生徒だね」

「うん」

「今年は僕がいたから無かったけど、生徒会長の立候補者が出ないと『今年は体育祭が無くなるぞ!』って、先生方が脅して来るんだよ」

「へえ」

「それで、主な仕事だけど……」

こんな調子で、彼が喋って私が短く相槌を打つという会話が続いた。喋る事も無かったし、彼の一生懸命な説明を遮ることもできなかった。
彼の短髪は、窓からの光で金糸のようにきらめいていた。ときたま目が合って見つめ合うような事もあったが、いつも恥ずかしくなって、学事暦を確認する振りをして目を逸らした。
彼と一緒に過ごしても、昔の記憶が呼び起こされる事は無かった。どう考えても、彼と会ったのはこの高校が初めてだ。

「どうだろう。生徒会に参加してみないかい?」

全ての説明を終え、彼は締めの一言を口にした。
私の答えは、説明を聞く前から決まっていた。こういうものは、私の柄ではないのだ。
会長は真剣な顔で私を見つめている。思っていたよりずっと、彼は私に加入して欲しかったようだ。真正面から視線を受け止める勇気が無くて、俯いて口を開いた。
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