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「生徒会長ってマジイケメンだよねー!」
「生徒会長?」
友達の言葉に、記憶の辞書を引っ張り出す。『生徒会長』の欄には、未だに中学時代の生徒会長の写真が載っていた。
「ごめん、どんな人?」
「入学式で挨拶してた人だって!金髪で眼鏡の!」
「挨拶、ちゃんと聞いてなかった」
「聞けよ!」
小気味良いツッコミの後、彼女はどれだけ生徒会長が素晴しいイケメンだったかを語り始めた。
曰く、爽やかで眩しい、雨上がりの虹と太陽のような笑顔。
曰く、剣道で鍛えた引き締まった肉体と長い足。
曰く、知的さと優しさを醸し出す、フェチにはたまらない眼鏡。
これだけ賛美される外見で、しかも生徒会長という肩書き。
「漫画みたい」
「アンタはそれしかないのか」
呆れた目で溜息をつかれた。彼女は、私の漫画好きを言っているのだろう。
確かに人より沢山読んでいるかもしれないが、呆れられる程病的ではない。
反論しようかと思ったが、彼女の頭の中は生徒会長のことで一杯のようだった。
「彼女いるのかなーいそうだよねー」
「そうだねー」
相槌を打ちながら、つやつやとしたビニールともプラスチックともつかない床―――リノリウムというらしい―――を歩く。真新しい上履きが、キュッキュと音を立てた。
「私、吹奏楽部行きたいんだ」
「そうなの?」
「うん。フィナも一緒に来る?見学だけでもオッケーだって」
彼女の手には、校庭で渡された勧誘チラシの束があった。見る?と差し出されたので頷いて手に取った。
陸上、バレー、美術、バドミントン、書道―――中々メジャーなものばかり。
「漫研ある? あったらそこ入部しなよ。ぴったりだって」
「私そこまでじゃないよ」
「そこまでってどこまで?」
「描かないの」
「ふ〜ん?」
私の線引きにはあまり興味が無さそうだった。
吹奏楽部のチラシには、『放課後、音楽室で活動中!』とあった。音楽室は上の階だ。上るのめんどくさいなあと思いながら横に細長い階段に足をかけた。