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彼女は思案しながら絵本の山を順番に見ていった。そして、夜空の表紙の絵本が現れたところで手を止めた。

「これはどうです? 凛々の明星。一番星にまつわるお話です」

「りりのあかぼし?」

彼女が言うには、『空が暗くなったとき一番最初に輝く星』。それをこの世界では凛々の明星と言うらしい。
きっと『一番最初に輝く』という勇気ある行動を起こした星を称えた名称なのだろう。光る、なんていう目立つ行動を起こしたら、敵に狙撃されたり仲間から「足並みを揃えろ!」と叩かれたりするに違いない。
そう思ったが、話を聞くと違うようだった。
なんでも、その凛々の明星は元々人だったらしいのだ。

「どうして星になったんですか?」

「ふふ。それはこの本に書いてあります。じゃあ読んでみましょうか」

「はい」

エステリーゼに寄り添い、開かれたページを覗き込んだ。左のページには丸々絵が書かれ、右のページには短い文章が書かれていた。
良くない事が書かれている。それは一目瞭然だった。左の絵は黒や紫を基調に、ぐるぐると混沌とした抽象画が描かれていたのだ。

「―――その昔、世界を滅亡に追い込む災厄が起こりました」

彼女の可愛らしい声が、キリッと冴えて流れる。
いきなりの重い話に息を呑むと、エステリーゼが私の方へ距離を詰めてきた。

「フィナ、もしかして怖いです!? もっとこっちに寄ってもいいんですよ!」

「は、はい」

お言葉に甘えて、彼女の方へ寄りかかった。この体勢の方が本を見やすいのだ。

「フィナの髪、柔らかくてサラサラです……」

「………」

恍惚とした声で囁かれ、反応に困った。やっぱり変な人だったのだろうか。



***



フレン小隊副長、ソディアは走っていた。
本来なら、礼を重んじて然るべき城内。そこを不躾に騒がせているのは、先程目にした情報を、何が何でも上司に伝えたいが故だった。
上司、フレン・シーフォが溺愛している少女、フィナの失踪―――
もぬけの殻だった部屋を思い出し、ソディアは唇を噛んだ。
あの時、もう少しだけ部屋を物色できていれば―――!
フィナの失踪という事実に驚き、つい部屋を飛び出してしまったが……あの部屋は、ソディアの敬愛するフレン小隊長私室だった。
もっと、嘗め回すように仔細を確認してみたかった。あわよくば、髪の毛の一本でも拾ってお持ち帰り―――いやいやいや!
ソディアは頭の中の邪な欲求を振り払った。今はそんなことを考えている場合ではない。フィナの身に、危険が迫っているかもしれないのだ。あの幼く可愛らしい少女に。
フィナに好意を寄せているのは何も小隊長だけではない。彼の率いるフレン小隊の者は全員、彼女に対して親愛の情を持っている。
無論、ソディアも例外ではない。少女に羨望の眼差しを向けられるたび、妹とはこういうものだろうかとくすぐったい気持ちになっていたのだ。
部屋の近くを警戒していた騎士にフィナの姿を見た者はいなかった。無論、不審な者を見たという報告も無い。となれば、考えられる可能性は一つ。
犯人は、我々と同じ騎士。

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