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彼女は控えていたメイドさんにお茶とお菓子の用意をするよう頼み、私にはロココ調ソファに座るよう勧めた。高いものを壊したり汚したりしてはいけない!という心理が働き、その高級そうなビロード地におっかなびっくりお尻を乗せた。エステリーゼは私の隣に座り、トイレで見せたキラキラとした瞳を私に向けた。

「フィナはどこから来たんです?」

いきなり難易度の高い質問だ。
流石に異世界から、とは言えない。フレンが私を見つけたのはシゾンタニアという街らしいが、それも言っていいのだろうか。変に怪しまれたりは……
考えている間に、エステリーゼは「もしかして……」とこちらに身を乗り出した。

「もしかして、貴方は空から降りてきた天使さんです? 高潔な騎士の下には守護天使がやって来る、という物語を読んだことがあります!」

「えっ」

冗談か、本気か、お世辞か。とっさに出てきた選択肢はこれだった。
私の動揺を見止めた彼女は、「やっぱりそうなんですね!」と翠の瞳を更にらんらんとさせた。
これは本気だ。

「違います!」

「違うんです? でも、騎士団のマントを着てますし、お城に貴方のような小さな子供がいるはずありません! やっぱり天使、いえ、さもなくば妖精です!」

突拍子も無く思えた天使発言は、彼女なりの裏付けに基づいたもののようだ。
だとしても、違うものは違う。トイレなんていうもの凄く人間臭い場所で会ったのに、どうしてこういう思考を飛ばせるのだろう。
仕方が無いので、シゾンタニアで騎士団に保護されたことを正直に話した。がっかりされるかと思ったが、意外にも彼女は「本物の小さな女の子です!」と大喜びだった。
彼女にとって、天使と妖精と小さな女の子は、同じレベルの珍しさだったようだ。

「フィナは何をしてたんです?」

「部屋でお留守番してました。あと、字の勉強です」

「まあ、いい子ですね。字の勉強って、どんなことをするんです?」

「本を読むんです」

「本ですか。私も本は大好きです。よかったら、一緒に絵本を読みませんか?」

思いがけない提案に、ビックリして彼女を見た。
願ったり叶ったりだ。一人であの文字を学ぶのは、とっても退屈だった。こんなところに勉強の場があるとは。
喜んで賛成すると、彼女は奥の棚から一抱えもある絵本を出してきた。

「私が小さい頃に読んでいた本たちです。フィナはどんなお話がいいです?」

「エステリーゼさんが好きなお話が読みたいです」

これだけたくさんの本を読破していているのだ。彼女の選ぶ本は、きっと面白いに違いない。

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