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それでも私が気を許さないのを見て取ると、少し考えてから手を叩いた。
「私のお部屋、この近くなんです。よかったら少しお話しませんか? 美味しいお菓子を用意させます」
典型的な子供の気を引く作戦だ。でも甘い。日本の子供は「お菓子を貰っても、知らない人に付いて行っちゃいけないよ」と言い聞かせられて育つのだ。そんな怪しい台詞を吐こうものなら、防犯ブザーという現代武器で反撃されるのがオチだ。
だけど……
「お菓子?」
「はい。チョコやケーキもありますよ」
「本当?」
正直に言うと、私はお菓子に飢えていた。
この世界にもお菓子はある。アレクセイがくれたグミもそうだし、フレンと一緒に買い物に出たとき、お店ではクッキーやキャンディのような素朴なお菓子が売っていた。
けれど、買ってもらえないのだ。ねだっても、「ご飯が食べられなくなるから駄目」と却下されてしまう。
フレンの言うことも分かる。体と一緒に胃も小さくなって、物をたくさん食べれなくなった。お菓子を食べると、それだけでお腹いっぱいになって、ちゃんと栄養のある食事が食べられなくなるのだ。
「フィナは早く大人になりたいんだろう? だったら我慢しないと」
そう言って私を諭したフレン。彼の真っ直ぐな瞳が脳裏に浮かんだ。
「フィナはお菓子好きです?」
「好き!」
「じゃあ、行きましょう!」
甘い誘惑には勝てなかった。
エステリーゼついて行くと、彼女は近くの扉の前で立ち止まった。綺麗な白で、金の縁取りがついている。フレンの部屋は普通の木製で、茶色い扉なのに。
「ここが私の部屋です。どうぞ」
扉を開けてもらい、招き入れられたそこは……まさにお姫さま!といった眩い豪華な部屋だった。
広さはフレンの部屋の4倍、いや6倍はあるかもしれない。ロココ調―――というのだろうか。金持ち女社長の部屋に置いてありそうな、西洋風の豪華な家具に、高そうな柄の大きな絨毯。4人は寝れそうな巨大ベッドは天蓋付きだ。
声も出ないほどの驚きだった。実物はテレビで見るよりも迫力がある。もしかしなくても、エステリーゼは上流階級の人間だ。ドレスを着て、お城の豪華な部屋に住んでいる。これは……
「エステリーゼさんって、お姫様なんですか?」
「え? えっと……そうですね。皇族の一人です」
とんでもない人についてきてしまった。運がいいような、悪いような。恐れ多くて気が引ける気持ちと、お姫様と知り合えてラッキーという気持ちがない交ぜになった。