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「これ、なあに?」

フレンに渡された渋い色の本を眺める。
週刊漫画雑誌のような大きさと厚さで、装丁は歴史書のように分厚い紙が使われていて立派だ。表紙にはこの世界の文字と、幾何学的な図形が描かれている。

「フィナのために借りてきたんだ」

「私のため?」

と、言われても。私はこの世界の文字を読むことが出来ない。
困った顔をしてみせると、彼は微笑んで表紙の題字に指を滑らせた。

「“魔導器の種類と構造”って書いてあるんだよ」



「………」

ちっとも分からない。彼の口にした意味や音と目の前の記号を、何とか結び付けようとする。が、全然全く何の取っ掛かりも引っ掛かりも無い。
漢字が無い。それは確かだ。小文字大文字も多分無い。というか、まずこの文字一つ一つの区別が付けられない。一体幾つの種類があるのだろう。

「フレン、この文字って幾つあるの?」

「えっと……二十、六文字だね。それに数字が0から9まで」

思ったより少ない。ひらがなカタカナそのうえ漢字まである日本語と比べたら、かなり覚えやすい部類だろう。
いや、たとえ覚えにくかったとしても覚えなくては。
日常生活で役立つだけじゃない。元の世界へ戻る方法を探すためには、本を初めとした文章資料に当たる必要だってあるはずだ。誰かに読んでもらって内容を話して貰う、なんて方法もあるにはある。けれど、分厚い本が出てきた場合はそうもいかない。誰だって、興味の無い本を長々と読んでいたくは無いだろう。
昨日フレンに貰ったノートを広げた。「日記を書いたりするといい」と言われて渡されたものだが、今のところ暇潰しの落書きしか書かれていない。そのノートの真っ白なページを開いて、フレンに向けた。

「その文字、全部書いて」

「いいよ」

書かれた文字は、印刷されたように綺麗だった。
これで全部。ずらりと並んだそれを、順に舐めるように見た。
Nのような形にGのような形。こうやって見れば覚えられそうだ。

「この本は図解がいっぱい載っているから、絵と文字を照らし合わせて意味を覚えるといいよ」

「ありがとう」

なるほど。彼がこんな難しい題名の本を借りてきたのは、そういう訳だったのか。
フレンも、私に文字を読めるようになって欲しいと思っている。そう思ったら俄然やる気が湧いた。

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