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馴染みの下町の者に預ける手はある。だが、結界魔導器も知らなかった彼女を、帝都の一番外側に位置する町に預ける気になどなれない。彼女をずっと見ていてくれる人がいればいいのだが、一般的にそれを専業主婦と呼ぶ。独り身のフレンには到底無理な話だ。
―――結婚か。
ユーリに言われた言葉が頭をよぎった。

『21にして子持ちかよ。結婚するとき苦労するぞ』

結婚相手が必要になる時が、結婚相手に嫌厭される状態の時とは、皮肉なものだ。
フレンは心の中で首を振った。
最悪の状況は考えてしかるべきだが、これ以上の僥倖を求めては罰が当たるというものだ。
彼女とこのまま、城で暮らせる可能性がある。
今はそれを実現させるため、問題を起こさないよう努めるべきだ。
フレンはそう結論付け、目の前の上司に晴れやかな笑顔を向けた。

「ありがとうございます。アレクセイ騎士団長」

「礼には及ばぬ。ところで」

アレクセイの視線がフレンの手元に向いた。

「君は魔導器に興味があったのかね?」

フレンが手にしているのは魔導器の種類と構造を解説した本だった。

「いえ、これはフィナに読ませる為の本なのです」

文字が読めない彼女の為に、絵本を読んであげようと思い立った。しかし、騎士団の書庫にそんなものが存在するはずも無く、せめて絵の多い本を、と選んだのがこれだった。
それをアレクセイに説明すると、彼は再び朗らかな笑顔を浮かべた。

「なるほど。それでフィナ君が魔導器に興味を持ってくれれば嬉しいのだがな」

それは何故。問いかけようと口を開いたところで、明瞭な女性の声が書庫に木霊した。
声の主は、褐色の肌に青い髪、そして頭の後ろから二本の長い触覚を垂らした、クリティア族の女性だった。
帝国騎士団特別諮問官―――つまり、アレクセイの秘書であるクロームだ。
彼女はヒールを鳴らして二人に近付くと、品の良いお辞儀で挨拶をした。

「失礼致します。閣下、お客様が見えております」

アレクセイは「そうか」と軽く返事をすると、フレンに別れの挨拶を告げ、彼女と共に書庫を去った。

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