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「半年だ」
半年。騎士団にしては、十分すぎる長さだった。
「あ、ありがとうございます!」
「君がお礼を言うのかね? すっかり情が移っているではないか」
そうアレクセイはクスリと笑った。嫌味ではなく、部下にじゃれ付いているのだ。
その温かさを感じ取ったフレンは、気を緩めて心の内をこぼした。
「……正直に申し上げると、彼女を娘や妹のように思っています」
「ならば、君が引き取れば万事解決」
「え……」
「ではないのかね?」
思わぬ提案に、フレンは目をぱちくりとさせて目の前の上司を見た。至極真面目な赤い視線が真っ直ぐ返ってくる。
冗談かと思ったが、なかなかそう宣言されない。どうやら本気のようだ。
「それは……私のような一兵卒に許されるのでしょうか」
「フィナ君の同意があれば問題なかろう。帝国法で、養子についての取り決めがあるのは貴族だけだ。騎士の職務がおろそかになるのは頂けないが、現状を見る限り、その可能性はなさそうだ」
彼女が自分の家族であったなら。フレンがそう考えたのは一回どころではなかった。上司に、そして何より尊敬するアレクセイ騎士団長に、こんな素晴しい提案をして貰えるとは。
フレンは心が高鳴ると同時に、迷いが晴れるのを感じた。
「そうだな。フィナ君を引き取るなら、狭くなるまで今の部屋を使ってもらって構わんよ」
「本当ですか!?」
「うむ。フレン小隊長の指導のお陰で、彼女はとても礼儀正しい。このまま半年間、大きな問題が起きなければ、文句を言う輩もおるまい」
逆に言えば、この半年の間に何か問題を起こしたなら、このまま城に住むことは許されない。
城を出るか出ないか。これは、フレンにとって大きな問題だった。
騎士は赴任の多い仕事だ。当然、フィナを帝都に置いて地方へ出向く事だってあるだろう。
そのとき、城に置いていくなら問題ない。城内は基本的に、そこいら中に騎士がいて安全であるし、食事から何まで先に頼んでおけば城の者が何とかしてくれる。
だが、城の外では。