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「話は聞いたぞ、フレン小隊長」
騎士団長アレクセイは両手を広げて朗らかに微笑んだ。まるで、部下の手柄話を人づてに聞き、今まさに褒めようとしているかのようだった。
けれども、フレンには心当たりが無い。シゾンタニアの調査から帰還して以降、仕事といえば訓練しかしていないのだ。
上司の言うところが分からず困惑した表情を返すと、アレクセイはふふ、と企みを持った笑みを口元に浮かべた。
「フィナ君を守るために、ルブラン小隊の者相手に大立ち回りを演じたそうではないか。まるで舞台劇を見ているかのようだったと聞いているぞ!」
フレンは一驚した。まさか訓練中の恥ずべきいさかいが、巡り巡って騎士団長の耳にまで届くとは。
此処は騎士団の書庫。蔵書量は中々のもので、本棚は吹き抜けの二階天井にまで伸びている。
アレクセイはたびたびこの場所を訪れる。ここで彼を見た下っ端の騎士たちは、その勉強家な一面を目の当たりにし、彼に対する尊敬の念を更に強くするのだ。
「お騒がせして、申し訳ありません」
咎められる雰囲気ではないと分かっていたが、フレンにとって昨日の騒ぎは胸を張れることではなかった。集団行動中に争いが起こるという事は、自分の統率力の無さを証明する事に他ならないからだ。
「いや、いいのだよ。それでこそ君に任せた甲斐があるというものだ」
しかしアレクセイは大きく頷き、口元の笑みを崩さなかった。
理由は分からないが、自分は騎士団長の意志にそぐうことができたようだ。
フレンはそう考え、ホッと胸を撫で下ろした。
「どんな相手が来ようとも、少女を守るために剣を取る騎士。まさしく戯曲のようではないか。それでこそだ」
「騎士団長……?」
実際の戯曲の一節かと思い、記憶を呼び起こそうとする。だが、フレンは下町育ちで芸能にはてんで疎い。漁るべき知識が無いことに気付き、記憶の捜索を打ち切った。
「今後とも、よろしく頼むぞ」
「はっ。あの、騎士団長」
「なんだね」
「フィナの今後についてなのですが……」
フレンは少しの不安を持って騎士団長に尋ねた。
このまま、めぼしい情報も無く時が過ぎた場合。騎士団はいつまで彼女を保護するのか。その期限が切れた時、彼女をどうするつもりなのか、と。
最後は救児院へ連れて行くことになるのだろう。それは分かっている。だが、それまでの猶予と、それを回避する可能性について、はっきり知っておきたかったのだ。
アレクセイは顎に手を沿え、「そうだな……」と思案するそぶりを見せた。そして、