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「相手は何人でも構わない。不満を持つ者は全員来い!」

左手に盾、右手に剣を構え、フレンが雄々しく吼えた。それだけで先程までケンカ腰だった人々は怖気づき、それぞれ顔を見合わせた。
形勢はこちらが有利に見える。けれど一遍にたくさんの騎士を相手にするなんて、本当に大丈夫なんだろうか。確かに彼は小隊長で、平の騎士より強いのだろうが。

「ねえ、ソディアさん。フレンって、どのくらい強いの?」

フレンの方を向いたまま問いかけた。

「心配しなくても大丈夫よ。フレン小隊長は、エッグベアを素手で倒せるくらい強いわ!」

返ってきた声は興奮冷めやらぬ、熱っぽい調子だった。
えっぐべあ。多分、ヒグマを素手で倒せるみたいなニュアンスだろう。勢いで言ってしまった可能性を考慮しても、彼はそれなりに強いようだ。
ルブラン小隊の者達は、おじおじとフレンと仲間の騎士を見比べるばかり。一向にかかってくる様子が無い。

「ええい!成せば成るのであーる!!」

私を怒鳴った長身の騎士と低身の騎士が、覚悟を決めてフレンに突進した。そもそもの言いだしっぺとして、後ろめたい気持ちがあったのだろう。
長身の方は剣、低身の方が長い槍を突き出してフレンに迫る。
ソディアに大丈夫と言われて安心していたはずが、一気に胸が締め付けられた。
あんなのが刺さったら、フレンは大怪我をしてしまう。

「フレン!」

少しでも彼に近付こうと前のめりになった。ソディアの手が私を押さえる。
私が駆けつけたところで力になれるわけじゃない。分かってはいたが、遠くで見ているのは耐えられなかった。
フレンは彼らが行動を起こしても、眉一つ動かさなかった。盾を腰の辺りに、剣は腕を伸ばして地面に向けたまま、じっと彼らの動きを見つめている。
あと少しで、彼らの武器がフレンに触れる―――そう思ったとき、彼は動いた。
軽く地面を蹴って彼らから距離を取る。それだけで彼は二つの武器から逃れた。先程までフレンがいた場所で、長身と低身の騎士がぶつかり、砂利を擦る音と共に尻餅をついたのだ。

「もっと周囲の状況に目を向けろ! 自分の役割をよく考えるんだ!」

耳を疑った。フレンは戦いながら、敵の騎士にアドバイスをしている。いや、そもそも彼は敵と戦っているという認識ではなくて、訓練の一環のつもりでいるのか。
二人が自滅したのを見て、残りの騎士たちも一斉にフレンに向かって走り出した。さりげなくアドバイスを生かして、剣は槍のやや後ろにつく隊列になっている。
剣は槍と比べてリーチで劣る。槍で先制した後、剣で追い込むつもりだ。
フレンの剣が動いた。剣先が地面すれすれを滑り、大げさとも言える動きで刀身が跳ね上がる。
すると、槍使いの一人が「うわっ!」と悲鳴を上げて倒れた。彼らに動揺が広がる。

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