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「あの子、正直ブスでしょ?」

耳に入ったその言葉が、ぎり、と私の心臓を鷲づかみにして締め上げる。心臓から溢れた血液が顔まで上って、私の顔は赤く熱を持った。言葉の主は教室の隅っこで、同じグループの子達と気安い会話を続けている。自分達の声の大きさに気付いていない。彼女らは本人に聞かれているなんて、夢にも思っていないだろう。自分と、自分の仲間だけが世界の全てだと思ってるんだ。

バカじゃないの。

心の中で罵倒して、私は席を立った。教室の後ろで楽しそうにおしゃべりしている彼女達に目を向けないようにして教室を後にする。あっちがその気なら、わざわざ私の「世界」に彼女達を入れる義理は無い。

このくらいの陰口はいつものこと。いつもどこかで誰かが、誰かの悪口や不満を言ってる。そうして日ごろのストレスを発散してる。
嫌な世界。
自分より劣ってる人にイライラしたり、自分より優れている人を妬んだり。
こんな気持ち、なければいいのに。そうすればきっと、世の中はもっと平和になる。

そんなことを考えながら、惰性で昇降口まで行き、靴を履き替えて校庭に出た。
私の心臓には、まださっきの言葉が絡まっていた。
分かってる。自分がそんなにキレイじゃないことくらい。鏡だって見たことある。
でも、実際他人に言われると、その破壊力は凄まじかった。
やっぱり、他の人から見ても私って―――いいや!
ストッパーがかかった。
ネガティブな思考で気分が下がり、デフレスパイラルに陥りそうになると、何故か私の中でストッパーが発動するのだ。そうすると、一気に気分を盛り立てる考えが浮かんでくる
人の好みなんて、千差万別!あの子好みの顔じゃなくたって、私は私の好きなひとに気に入ってもらえればそれでいいじゃない!
まだ私に好きな人はいないけれど、広いこの世界。私を好いてくれる人が必ずいるはずだ。
そう、絶対誰かが――――

考え込んでるうちに私は校門に差し掛かった。二つの直方体の岩。その間の道を進む。と、

「え?」

地面が抜けた。踏み込んだ足が足場を見つけられなくて、ストンと際限なく沈み込む。
道路工事? こんなところで!?
捕まるところを探して腕を振る。手には何も振れず、バランスを崩したまま上半身が宙に投げ出された。

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