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私はこんなに疲れているのに、どうして皆は平気なんだろう。不公平だ。
あてつけるように腕の疲れを訴えると、何故か彼は嬉しそうな笑顔を浮かべ
「そんなに頑張ったんだ。よくやったね!」
と言った。途端にめげていた気力が復活した。彼への非難の気持ちより、嬉しい気持ちの方が断然大きくなったのだ。
頑張ってよかった。
調子に乗った私は、フワフワとした気持ちでフレンに尋ねた。
「私、騎士になれそう?」
「ん〜、無理かな」
さっきの褒め言葉はなんだったのだろう。
思わぬ突き落としを食らい、呆然とフレンを見つめた。
流石に本気で騎士になれるとは思っていないし、なりたいとも思っていない。そうではなくて、もっと彼に褒めて欲しかっただけだ。
もしかして、フレンは私のことが嫌いなのではないか。だからこんな意地悪なことを言っているのでは。
そう考えたらじんわりと目頭が熱くなってきた。
「あっ、フィナ!? ごめん、ごめんね、泣かないで」
いつも落ち着いていて頼りになるフレンが、今までに見たことが無い程うろたえ始めた。声は裏返り、私に向かって差し出した手を、どうしたらよいのか分からずに彷徨わせ、仕舞いにはフレンのほうが泣きそうな顔になった。
びっくりして涙が引っ込む。
「フレン、私泣いてないよ」
「本当かい? 大丈夫? ごめんね、君を傷つけるつもりは無かったんだ」
「うん、大丈夫」
「そう……よかった。ごめんね。僕は騎士が憧れだけじゃ勤まらない、大変な仕事だって
知っているから……つい、厳しいことを言ってしまったんだ」
本当にしょんぼりとした顔で謝罪の言葉を重ねる。その様子に、「彼は私のことが嫌いなのでは」という疑問は掻き消えた。
「どうかしましたか?」
異変を察知したのか、ソディアがこちらに駆けて来た。
「いや、問題ない」
ソディアに向き直ったフレンは、既に小隊長の顔になっていた。
一通りの基礎訓練を終え、フレン小隊、ルブラン小隊が向き合って一列に整列した。
基礎訓練の間、私は手の空いた騎士さんに相手をしてもらうというずいぶんなお荷物になっていた。申し訳ない気がするものの、訓練に参加したとしてもお荷物であることに変わりは無いのでどうしようもない。
なにか、私に出来ることがあればいいのだけれど。
「では、これより一対一の実戦演習を行う!」
ルブランの宣言で、両小隊は距離を取り、真ん中に試合ができる程度のスペースができた。
私もフレンに手を引かれ、フレン小隊側に下がった。やはり実戦演習ともなると気合が入るのか、皆表情を引き締め、雰囲気もぴりぴりとしていた。