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「はい。フィナのだよ」
フレンの声と共に、目の前に細長い影が現れた。
手にとって見ると、逸れは綺麗に整えられた木の棒だった。野球バットのように手にぴったりフィットする。何に使うのだろう。
「フィナの場所はここ。危ないから、あまり隣の人に近付き過ぎないようにね」
肩を押されて移動した先は、フレン小隊の人が横二列に整列している所の、最後尾だった。
「これから準備運動の素振りをするんだ。皆はタイミングを合わせるけど、フィナは自分のペースで振っていいからね」
つまりこの木の棒は剣代わりらしい。というか、何故私も。
「じゃあ、始めるからね」
「あっ、フレン!」
呼び止めには答えず、彼はさっさと自分の位置―――列の先頭―――に行ってしまった。頼みのフレンと離れてしまい、温かい教室から寒い廊下に出たような、薄ら寒い感じに襲われる。
せめてソディアはいないかと周囲を見回すが、彼女も列の先頭の方にいた。
隣の騎士がははは、と笑った。少し驚いて彼の方を見る。銀の冑が私を見下ろしていた。
「フレン小隊長がいないと不安かい?」
どうやら彼は私のことをずっと見ていたようだ。素直に「はい」と答えると、彼はうんうんと頷いた。
「まだ小さいもんなあ。まあでも、剣を振るだけの訓練だから、フィナちゃんにも出来るよ」
「総員、構え!」
フレンの気迫のこもった声が響く。会話は切り上げられ、皆静かに得物を構えた。片手剣、両手剣、槍。良く見ると同じ武器の人で固められ、それぞれの構えをとっている。
「始め!」
勇ましい掛け声と共に、一斉に武器が振り下ろされる。倣って木の棒を振り下ろすが、既に皆二回目の振り上げに入っていた。慌てて棒を振り上げて、力任せに振り下ろすと、今度は早すぎた。
何とかリズムを掴もうと振り回しているうちに、腕が疲れて振り上げが辛くなってきた。
騎士の皆に疲れた様子は全く見えない。始めの時と同じペースと軽やかさで、スイスイと武器を振っている。
気付かなかった。騎士団は、超人の集まりだったのだ。
彼らについていくのは諦め、フレンに言われたとおり自分の好きなペースで素振りすることにした。それでも終わる頃には息が上がって、腕には大きな疲労が残った。
素振りが終了すると「お疲れさま」「頑張ったなあ」と周囲の騎士たちが温かく声をかけてくれた。当然、彼らの息は全然乱れていない。フレンも私のところに駆け足で戻ってくる余裕っぷりだった。
「お疲れ様。ちょっと辛かったかな」
ちょっとどころじゃない。気楽な彼の態度にムッとした。体力と一緒に、精神の余裕も削れていた。