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「フレンがいるから、大丈夫です」

帰る方法は分からないけれど、私の傍にはフレンがいてくれる。幸運だと思う事こそあれ、不幸だとは思わない。
私の言葉を聞いて、ルブランは驚きと感心の混ざった眼差しを向けた。
会ったばかりのおじさんにじっと見つめられるのは気持ちの良いものではなく、なんとなく怖くなってフレンの後ろに半分だけ隠れた。

「すみません。この子は少し人見知りするもので」

「いやいや。すっかりフレン殿に懐いておるのですなあ」

怒るどころか、ルブランは温厚に微笑んだ。そんな彼に、フレンも照れくさそうに微笑み返すのだった。


***


シュヴァーン・オルトレインは自らの執務室にいた。
執務室は全ての隊長格に与えられる部屋で、本来事務仕事も多い隊長職の大きな助けになるはずだった。
しかし、任務で外出することの多い彼はあまりこの部屋を利用していない。ここに帰ってきたのも随分久しぶりだ。
今日は珍しく、その部屋に二人も人間がいた。
客人はシュヴァーンよりも目上の人物であったため、彼はすぐ後ろにある上等の椅子には腰かげず、軍人らしい真っ直ぐな姿勢で直立していた。

「今、騎士団で子供を保護している。フィナという名の黒髪の少女だ」

客人―――騎士団長アレクセイ・ディノイアの声には喜色が滲んでいる。シュヴァーンは「ああやっぱりコイツはそっちの気があるのかやれやれ」とうんざりした面持ちで上司を見た。
騎士団は絶対的に男が多い職場だ。女もいるが、騎士という仕事柄、気が強かったり生真面目だったり腕っ節が下手な男以上だったり、とにかく「守ってあげたくなる」系統の女性がいない。職場は恋人を探す場ではないし、足を引っ張る同僚は御免こうむるので現状は正しい状態ではある。
しかし、不足しているものは欲しくなるのが人間の性というもので、騎士の中には自分より力が弱くて、誰かの庇護を必要とするもの―――つまり年下の少女を好む輩がいる。俗に言うロリコンだ。
騎士団長アレクセイはその実力と人望の割には独身である。もしかして彼も奴らの仲間なのではないかとシュヴァーンは密かに思っていたのだが、やはりそうだった。
出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる女性が好きなシュヴァーンにとって、こういう人々の嗜好は理解に苦しむ。
まあ、自分には関係のないことだと首を振ろうとして、彼は続くアレクセイの台詞にぎょっとした。

「彼女を君に任せることがあるやもしれん。良くしてやってくれたまえ」

「……子供の世話は経験がありません」

俺にそんな趣味は無い。そう言いたいのを我慢して、障りの無い口上を述べた。

「何、今すぐではない。しばらくはフレン小隊長に任せるつもりだ。彼は中々に良い働きをしてくれる青年でね」

フレン小隊長。下町出身の小隊長だと噂になっていた。きっと以前からこういった面倒事を上から押し付けられてきたのだろう。
ご苦労様なことで。
シュヴァーンは心の中で同情した。

「先程様子を見てきたが、彼女と仲睦まじく手を繋いで歩いていた」

撤回する。どうやら彼もアレクセイのお仲間だったようだ。

「彼に懐いているのなら、わざわざ自分の出る幕ではないと思いますが」

「彼女は君の後輩かもしれないのだよ」

「は……?」

後輩、後進、目下の者、後任、後から生まれたもの―――
単語の意味を考えながら、シュヴァーンは生まれた悪い予感を打ち消そうとしていた。

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