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「おはようございます」
向こうからソディアが駆けてきた。私の存在に気付くと、引き締めていた顔をほわっと綻ばせた。
「素敵なマントね。どうしたの?」
「騎士団長さんに貰ったんです。ソディアさんともお揃いです」
ほら、と良く見えるようマントを前のほうに引っ張って見せると、彼女は「ふふ、そうね」と朗らかに微笑んだ。
彼女がこんなに優しい人だったとは、初めて会ったときには全然気付かなかった。
キツそうとか思ってごめんなさい。心の中で謝った。
急にフレンが後ろから私を抱き上げた。両手両足が自由になって宙に浮かぶ。
その感覚がなんだか面白く、パタパタと手足を振った。今の私は何かにぶら下がっているわけでも、立っているわけでもないのだ。
そんな私の様子を見て、ソディアは更にニコニコとした。
「ソディア、フィナは私たちの小隊で保護することになった。皆が集まった時にもう一度話すが、先にルブラン小隊長に挨拶をしてくる」
「了解しました」
フレンは私を抱っこしたまま移動を開始した。まるで空に浮いたまま移動している気分になって、「うわぁ」と歓声が漏れた。フレンの腕に脇を引っ掛けた状態なので、あまり動くとずるっと沈み込んでしまう。けれどフレンは怒らずに、また同じ状態になるよう弾みをつけて抱きなおしてくれた。
グラウンドを横切り、フレンはオレンジ色の鎧を着たチョビ髭のおじさんの近くで止まった。
「おや、フレン殿」
おじさんがこちらに気付いた。良く通る声だ。なんだか、彼の声だけ音量が一つ大きいような気がする。
「おはようございますルブラン小隊長。本日はよろしくお願いしたします」
「こちらこそ。互いに技を磨きあいましょうぞ。……して、そちらの幼子は?」
黒い瞳がこちらに向く。キリッとした眉に割れた顎。中々濃い顔立ちのおじさんだ。
「うちの小隊で世話をすることになりました、フィナといいます」
ここでフレンは私を下ろし、「さ、ご挨拶」と促した。
「フィナです。よろしくお願いします」
ぺこり、とお辞儀をすると、彼も律儀にぺこりとお辞儀を返し、
「私はシュヴァーン隊小隊長、ルブランです。やや、礼儀正しい良い子ですなあ」
と子供相手とは思えない丁寧な挨拶を返してくれた。
フレンと同じ小隊長。小隊長は彼らみたいに真面目な人が多いのだろうか。
「しかし、騎士団で世話とは何でまた」
「彼女はシゾンタニアで保護した子供なのですが、身元がまだ分かっていないんです」
「なんと!」
ルブランは目を見開き、両手を「わ〜お」といった感じで構える大げさな反応を示した。
「それは……こんなに幼いというのになんと哀切な」
目まで潤ませて同情の眼差しを私に向ける。随分と情に厚い人だ。
けれど、私は泣いて同情されるほど現状を嘆いてるわけではない。そんな目で見られるのは不本意だ。