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フレンは彼に話してしまうのだろうか。フレンが嘘をつくところは想像できない。けれど人の秘密を簡単に話してしまうような、口が軽い人だとも思えない。
不安になってフレンを見上げる。彼は真っ直ぐにアレクセイを見据え、

「色々話は聞けましたが、特定には到っていません」

とはっきりと答えた。ホッとしてアレクセイの方を見ると、彼は「ふむ、そうか」とあまり感情の見えない調子で相槌を打った。

「フィナ」

呼ばれて再びフレンを見上げると、彼は「お礼言わないと」と小声で告げた。
そうだ。今着ているマントは、アレクセイから貰ったものだった。

「えっと……騎士団長さん、マントありがとうございました」

アレクセイ閣下、騎士団長様、色々呼び名が浮かんできたが、さん付けで落ち着いた。
すると、アレクセイは突然クワッと両目を見開いた。彼の赤い瞳はまるで血のようで―――実際、ウサギと同じで血の色が透けているのだろうが―――怖い。
何か気に障ることを言ってしまったのだろうか。アレクセイ騎士団長閣下と丁寧に呼ばないといけなかったのかもしれない。
怒声が飛び出すのを覚悟して身構える。彼はサッとしゃがんで私の両肩に手を置いた。セクハラ、という単語が頭をよぎる。
恐る恐る視線を合わせると、彼は校長先生のような、どっしりとしたあたたかい笑顔を私に向けた。

「うむ!立派に着こなしてくれて私も嬉しい。凛として、まるで小さな騎士のようだ。フレン小隊長の言葉にしっかり従って、日々壮健に過ごすのだよ」

言うこともまるで校長先生だった。
あまりの迫力にびくつきながら返事をすると、彼は「よろしい!」と私の頭を撫でた。そして「これをあげよう」とグミキャンディを一つ私の手の平に転がし、長い裾を翻して去っていった。
お菓子を用意しているなんて、意外と子供好きのようだ。

「よかったね、フィナ」

「うん……でも、ちょっと怖かった」

「はは。威厳のある方だからね」

フレンによると、彼がくれた赤いグミはアップルグミというもので、体力回復に力を発揮する栄養ドリンクのようなものらしい。
お菓子をあげようと思ったけれど、栄養ドリンク代わりにしているコレしかなかった、ということなのだろうか……。そう考えると、怖さも和らぐかもしれない。


階段を下り、長い廊下を歩いてグラウンドのような場所に出た。辺りにはちらほらと騎士の姿が見える。
任務が無い時の騎士は訓練をして過ごすそうで、今日は敷地内の訓練場―――つまりここで、フレン小隊、ルブラン小隊の合同演習をするのだそうだ。
私はどうすればいいのだろう。フレンに手を引かれるまま、付いてきてしまったけれど……。隅っこで大人しく見学しなければいけないのだろうか。

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