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フレンの言葉に、フィナは泣きたくなるような想いを感じていた。
彼女が自分の素性を話さずにいたのは、「フレンに嫌われるのが怖い」という自分勝手な理由からだった。
それなのに、フレンはひたすらフィナの身を案じてくれるのだ。
聖人を前にしている気分だった。全てが教科書のような人格者を前に、お粗末な自分がとても恥ずかしく邪に感じる。

「フィナは、どこから来たの?」

今更隠す気は無い。フィナは伝わらないのを承知で、そのまま告げた。

「日本、って国……です」
「にほん? 聞いたこと無いな……シゾンタニアの近くなのか?」

「多分、すっごく遠い」
「このイリキア大陸には無いってこと?」

「この世界に無いと思う」

言ってしまった。口にしてしまえは意外とどうということも無く、胸の重みが取れて清々しい気分だった。

「この世界?」

フレンはその言葉をどう受け取ればいいの分からず、呆然とフィナを見やった。
ただ、彼女が抱えていたものは、自分が予想していたものより遥かに大きい。そうフレンは感じていた。
書くものが欲しいと言うのでノートと鉛筆を与えると、フィナは器用に鉛筆を使い、大きく波打つ線をノートに書いた。

「こんな形の島国なの」
「特徴的な形だね……」

そう感想を言うのがやっとだった。四角い島の下に、バナナのように曲がった島があり、更に二つ、三つと島が寄り添っている。
フレンは任務で世界各地に赴いた経験がある。その際、このテルカ・リュミレースの世界地図を幾度と無く見た。
フレンの記憶の中に、こんな形の島は無い。断言できるほど、彼女の書いた図形は特徴的だった。

「でね、隣にユーラシア大陸があって、海を挟んでアメリカ」

そう言ってフィナは更に島を書き足した。日本列島より大きく簡単な図形で、省略してあるようだ。彼女はその図形の中に、更に細かい記号を書き込んだ。
フレンは最初、彼女が何を書いているのか分からなかったが、その記号の規則性に気付いて愕然とした。
これは、文字ではないのか。彼女は、異世界の文字を書いている。

「ちょ、ちょっと待って!」

フィナは突然手首を掴まれて、驚いて顔を上げた。そして同じく動揺で見開かれた大きな碧眼と目が合い、その海のような色を綺麗と思った。

「それ、文字なのかい?」
「へ……」
「この、丸の中に書いてある複雑な記号だよ!」

彼が指差したのはユーラシア大陸の大陸、の部分だった。フィナは頷き、「たいりく、って読むの」と説明した。

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