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「私のこと、話します」
フレンの正面に座るフィナは、今までに無いほど大人びて見えた。
帝国騎士一人一人に与えられる私室。もっぱら寝起きと私物を保管するためだけに使われるこの部屋には、客人を想定した家具は存在しない。
互いに膝を付き合わせるとなると、使えるのはソファの代わりになるベッドだけだ。二人はベッドの上で正座し、向かい合っていた。
フィナは思いつめた表情をしていて、その様子にフレンは心を痛めていた。
つい先刻まで、彼女はラピードと戯れてとても楽しそうにしていたのに。何が彼女をこんなに追い詰めているのだろう。
理由を想像すれば、悪いことばかりが出てくる。それこそ、彼女の前では口に出せないような事も。
「フレンは何が聞きたい?」
くりくりとした褐色の瞳がフレンを見上げた。ユーリと同じ色、と思っていたが、彼女の色はそれよりも柔らかい。
「質問していいのかい?」
尋ねると、フィナはその小さな頭でこくりと頷いた。
聞きたい事はたくさんある。だが、今一番フレンの胸を騒がせているのは彼女を追い詰めているものの正体だった。
下町からの帰り、彼女は故郷を探されるのを嫌がった。おそらく故郷で何かがあったのだろう。それを聞きたい。だが、話したくないことだったら。辛い記憶だったら、無理に聞き出したいとは思わない。
「故郷を探さなくていい、と言ったのはどうしてかな」
好きに答えられるよう、遠まわしな質問を選んだ。すると、彼女は予想していなかったのか不思議そうな顔をした。
答えはすぐに返ってきた。
「普通に探しても、きっと見つからないから。探しても無駄だと思ったの」
思ったより悪い答えではない。むしろ単純な話だった。彼女の「探さないで」は「探しても無駄だよ」という意味だった。
それをフレンは誇大解釈して、彼女の思いつめている原因が故郷にあると勘違いしてしまったのだ。
自分があれこれ巡らせていた心配は、全て杞憂だったのか。
フレンはそれに気付いて、ホッと胸をなでおろした。彼女を悩ませているものの正体はまだ分かっていないのだから、安心するのはまだ早い。それは分かっていたのだが、想像していた最悪の事態が現実のものではないと分かって、本当に嬉しかったのだ。
「そっか。帰りたくないって訳じゃなかったんだね。……何か、故郷で辛い目にあわされたんじゃないかって勘繰ってしまった」