□4

[ 39/156 ]

急に熱の篭った質問を投げかけられて、はっとした。
しまった。私の素性は、決心がつくまで話さないつもりだったのに。話の流れでつい。

「ほとんどの住人が黒髪の国か……」

フレンが真面目に考え込んでしまった。考えても思いつく訳が無い。この世界には無いのだから、考えても無駄なんだ。
彼の服を引っ張って思考の海からの引き上げを試みた。すると彼はそれを催促と受け取ったのか「ごめんね」とこちらを見て申し訳無さそうに微笑み、

「今は思い浮かばないけど、フィナのお家は、僕が必ず見つけてあげるからね」

と、引き寄せるように私の頭をくしゃりと撫でた。
彼の厚意が、初めて辛く感じた。
―――違う。私はこの世界の人間じゃない。だから、探しても見つからない!
心の中で声を上げた。どうして口に出せないのか。それはただ、怖いからだった。本当の事を言って、変な子供だと思われて、嫌われてしまうのが怖かった。
黙っているだけ。嘘をついている訳じゃない。けれど、彼を騙している気がした。

「いい。探さないで」

私の言葉に、フレンは「どうして?」と目を丸くした。彼にわざわざ、時間を割いてもらうことは無い。

「きっと大変だから」
「そのくらい大丈夫だよ」
「ほんとにいいの!」

私の頑として譲らない様子に首をかしげ、フレンはしばらく黙って足を動かした。
そしてあることに思い至り、こう言った。

「もしかして、フィナは帰りたくないのかい?」

テストが近いのに勉強する気が起きず、つい別の事をしてしまって、それを見たお母さんが言うんだ。「勉強しなくていいの?」って。
そんな気分だった。帰らなくていいの? そう訊かれたような気がした。
分かってる。やらなきゃいけないことは言われなくたって分かってるんだ。
目標の帝都には着いた。これから帰る方法を探さないといけない。
帰る方法を知るには、誰かの協力が必要だ。私は子供で、この世界のことも知らない。協力を得るには、理由を話さないと―――
フレンを見上げた。私の不安げな表情に気がついて、彼は笑顔を作った。

「責めてるわけじゃないんだ。ただ、探さなくていいなんて……どうしてかなって」

フレンは、理由も聞かずに私に協力してくれる人だ。素性の分からない私の傍にいてくれる。
私の話を信じてくれる人がいるとすれば、それは彼だ。彼だったら、私の言うことを真剣に聞いてくれるはず。
もし信じてくれなかったら―――もう、この世界に信じてくれる人はいないということだ。
大丈夫だ。フレンなら。きっと。絶対。
自分自身を奮い立たせた。

[#次ページ] [*前ページ]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -