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びっくりした。誤解がこんなにすっきりと解けるものだろうか。しかも、誤解していた相手は人間じゃなくて犬だ。言葉の通じない相手。
普通なら、こんがらがったまま誤解を解こうとさえしないで終わるだろう。相手は犬だ。近付かなければいいだけなのだから。
こんな不思議な結果になったのはどうしてだろう。ユーリとフレン、二人の橋渡しがあったからだろうか。
ユーリの問いかけに頷くと、彼は「サンキュ」と言って、さっきと同じ口元をニッと曲げた大人な笑みを見せた。
この世界にも、英語ってあるんだ。
ユーリとラピードとテッド、あと世話を焼いてくれた女将さんにさよならを言い、私たちは家路についた。
「フィナは、初対面の人は皆怖く見えたりするのかな?」
下町から伸びる坂道を登りながら、突然フレンがそんなことを言った。
人ではないけれどラピードのことを言ったのかと思い、顔の傷と、千切れた鎖から猛犬だと思った事を話した。
「はは。あの鎖は元々ああなんだ。でもそっか。そう見えたんだね」
何処となく寂しそうな物言いだったので、気になってじっとフレンを見つめた。
けれど、彼の言葉が続くことは無かった。
これは、私が何かを言って聞き出さないと分からない。けれど、気のせいかもしれない「寂しそう」の原因を聞きだすには、なんて問いかけたらいいのか。
ラピードが猛犬に見えた、というのがいけなかったのだろうか。
なら。
「……本当は、とっても良い子なのにね」
これは本音だった。あの子は帰り際まで私の周りをうろちょろして、とても可愛かった。
「そうだね。……ねえ、僕はどう見えた?」
「え?」
彼の言うところが分からず聞き返すと、言い辛そうに言葉を詰まらせながら
「その、初めて会ったとき、フィナ、逃げ出したろう?」
と言った。
そういえば、そうだった。フレンを初めて見たとき、私は話も聞かずに逃げ出したんだった。もしかして、ずっと気にしていたんだろうか。
「やっぱり怖かった?」
「ううん」
「違うのかい?」
外国人に見えたから、が正解なのだが、どう説明するべきだろう。そのままで平気だろうか。ユーリが英語を使っていたのだから、外国というのは存在するはず。
「金髪だったから、外国人だと思ったの」
「外国? 帝国の外、ってことかい?」
フレンがとても意外そうな声を出した。街に金髪の人は結構いたので、金髪=外国人というアジア人の発想が通じないようだ。
「私の国の人は、ほとんど黒髪だから。金髪で碧い目の人は外の人ってすぐ分かるの。だから―――」
「フィナは、その国で暮らしてたの?」