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「クゥーン」

緑色の綺麗な目を揺らしながら、ラピードは私をじっと見つめた。
お利口さんに少し距離を取った場所でおすわりをして、鋭いしっぽをゆっくりと揺らしている。
ユーリの部屋を貸してもらって、びしょびしょになった服を買ったばかりの服へ替えた。いつもどおりフレンが手伝おうとしたのだけれど、居合わせたテッドのお母さん―――宿屋と酒場をやっていて、みんな女将さんと呼ぶらしい―――が、

「あんたたちみたいな若い男が、女の子の着替えを見るもんじゃないよ!」

と二人を追い出してくれた。とってもいい人だ。
その女将さんは、ついさっき濡れた服を洗うために部屋を出て行ってしまったので、今はラピードと二人きりだ。
ラピードは人を襲ったりしないとフレンは言っていた。ということは私に向かって突進してきた時、この子は別のことを考えていたはずだ。
初対面の人間に、襲い掛かる以外で突進する理由といえば―――

「私、エサ持ってないよ」
「ワンッ」

「持ってないってば」
「ワフ」

「その服、似合ってるってよ」

ユーリだ。部屋の入り口に目を向けると、ユーリとフレンが部屋に入ってくるところだった。

「そう言ってるの?」

ラピードに尋ねると、彼は「ワン」と元気良く一声鳴いた。この子は思ったより頭がいいみたいだ。

「ねえ、何で私を追いかけたりしたの?」

「ラピードに追いかけられたのか?」

うん、と頷くと、ユーリはマズイな、という表情になった。どうしたのか訊こうと口を開いたら、今度はフレンの質問が飛んできた。

「それで、川に逃げたの?」
「ちがう。落ちたの。後ろにあるの気付かなくて」
「そう……」

彼の視線が、ユーリに向いた。

「ユーリ……」

低く炎のように揺らめく声。彼の怒りが伝わってくるようだ。私に向けられたものではないのに、怖気立った。

「ああもう分かってる!俺の監督不行き届きでしたっ!」

ユーリも怖かったらしく、悪かった、とその場で土下座を披露した。そして、ラピードはその飼い主の背中に片足を乗せ、首を垂れて「反省」のポーズをした。
ものすごいコンビネーションだ。普段からこの飼い主とペットは阿吽の呼吸に違いない。

「フィナ」

こちらを向いたフレンの顔はいつもと変わりが無かった。もう怒りは収まったようだ。
ホッとして「なあに?」と問い返すと、彼は屈んで目線を合わせ、言葉を続けた。

「ラピードはね、水が苦手なんだ。だから、普段は絶対水場に近付いたりしない」
「え?」

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