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「さて、と」

フレンが席に着いたのを見計らって、ユーリは話を切り出そうとした。
明るい話でないのは分かっていた。幼馴染である彼は、フレンに遠慮というものをしない。
それはフレンも同じで、それゆえ二人は事あるごとに衝突を繰り返してきた。
そんな間柄なのだ。彼がどんなことを言おうとしているのか。それを推測するのは簡単なことだった。

「フィナの事だろう?」

フレンの先回りにユーリは黙った。肯定だと理解して、先を続ける。

「親が見つかるまで世話をするつもりだよ」
「当てはあんのか」
「無い。彼女が何処から来たのかも、正直分からない」
「あのな」

ユーリはひときわ瞳の力を強くして、フレンを見た。

「ガキの世話はペットとは違う。お前、騎士の任務こなしながら子育てする気か」
「苦労は承知の上だ。それに、これは任務の一部でもある」
「苦労するのはお前だけじゃねえ。フィナもだ。子供一人の世話を騎士任せにするなんて、お上は何考えてんだよ」

痛烈な事を言う。だが、それについてはフレンも考量済みだった。

「騎士団長の真意は分からないが、彼女は僕と離れるのを嫌がってる。しばらくは父親代わりになるよ」
「親父さんみたいな、か?」

やはり、ユーリにはかなわない。
フレンは見透かされたことを少し心地良く感じながら、ユーリを勝気な顔で見返した。

「あの名前、親父さんから取ったんだろ」
「彼女を見つけたとき、放っては置けないと思ったんだ。あの名は願掛けだよ。父にも守ってもらえるように」

亡くなった父親から名前を取ったのは、「もしもの時は彼女の面倒を一生見る」という決意の表れだったことは黙っておいた。
何故そんなことを思ったのか。それを問われても答えられないからだ。
今までにも、任務で親とはぐれた子供を保護したことはあった。
いずれもすぐ親を見つけることが出来たし、フィナのように保護してすぐ『自分がこの子の面倒を見なければ』という想いが押し寄せる事も無かった。
そういった意味でも彼女はフレンにとって特別だった。
直感。それ以外、説明の仕様が無い。そんな曖昧な理由でユーリを納得させられるとは思えなかった。なにせ、事が二人の人間の人生に関わるかもしれないのだから。

ふと、同僚に言われた言葉が蘇った。

―――「もしかして、小隊長がこの子に肩入れするのはユーリに似ているからですか?」

あの時は深く考えずに「そうかもしれない」と返したが、なかなか鋭い分析だ。
無茶ばかりして心配をかけさせる友人。それがあの長い黒髪に重なって、自分に放っておけない感覚を呼び起こさせたのかもしれない。
そう分析するフレンに対して、ユーリは別の仮説を立てていた。

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