□3
[ 27/156 ]
「なんだい、お嬢ちゃん」
ユーリらしき人物が私を見下ろして微笑んだ。彼を見すぎていたのに気付いて、慌てて視線を下ろした。
「ご、ごめんなさい」
「フィナを脅かさないでくれないか」
「誰も脅かしてねえよ」
今にも喧嘩しそうな険悪さだ。以前ユーリの話をしていた時は、いい思い出を語るように穏やかだったのに。
「ってか、お前この子どもどうしたんだよ」
「話せば長くなる。……立ち話もなんだから、どこか座れるところに行かないか?」
どうやら長期戦になる様だ。
再びフレンと手を繋ぎ、やってきたのはオープンカフェのようにテーブルが並ぶ屋台だった。
「ちょっとフィナには高いかな」
木のテーブルと椅子を見て、フレンは眉をしかめた。
「このくらい平気だろ。ほれ、落ちないように気ぃつけろよ」
彼の懸念など全く気にせず、ユーリは私を軽々と持ち上げて椅子に座らせた。確かに高い。地面が遠くて少し怖いし、テーブルの高さも首ぐらいだ。
お礼を言うと、彼は「ん、どういたしまして」と口角を引き上げ、大人な印象の笑みを浮かべた。
「フィナって言うのな」
「ああ。僕がつけた」
私を挟んで両側に彼らは座った。このまま私を間にして喧嘩をされたら堪ったもんじゃない。
「喧嘩しちゃだめだよ」
フレンに向かってそう言うと、意表をつかれたように驚いた顔で私を見つめ、ユーリは笑い出した。
「お前があんまり怖い顔してっから」
「それは君が……」
何かを言いかけて、口をつぐんだ。喧嘩しそうになってると自覚したんだろう。
「フィナ。彼が前に話していた僕の友人、ユーリ・ローウェルだよ」
初めまして、とお辞儀をし、名乗ろうとしてはたと思いついた。
今の私はフィナで通っている。本名を名乗ったところで混乱させるだけだし、使われる事だって無い。それなら、最初から愛称の方を名乗ったほうがいいのではないだろうか。
そう思ってフレンを見た。彼からもらった名前なのだ。自分から名乗るには彼の許可がいるような気がした。
私の当惑を感じ取った彼は、言葉を引き継いで「彼女は僕に保護される以前の事をよく思い出せないんだ」と説明した。
「保護……? どういうことだよ」
フレンは最初から説明した。任務で廃都シゾンタニアまで調査に行き、ナイレン隊長という人のお墓の近くで私を見つけたこと。(これは私も知らなかった)騎士団長の命令で私をしばらく保護すること、等々。
「へえ……隊長のお墓の近くでねえ……」
ユーリがまじまじと私を見つめた。
「似てねぇな」
生まれ変わりとでも思ったのだろうか。