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もしかして。
慌てて値札を見た。書いてある字は読めないが、他の服より文字が、桁が一つ多かった。

「フィナ、その……」
「あっ! こっちの服も可愛い」

慌てて近くの服を指差した。
白が基調のツーピース。下はスカートかと思ったが、キュロットのようだ。

「う〜ん、白は汚れるからなあ」

急に小学校時代の思い出が蘇った。そう言われて却下された服は数知れない。
白は駄目で、彼の好みに合うようなるべく地味目で、高くなくて、且つ、私も納得できるデザインのもの。
思案しながらもう一度、店の服を端から順に眺めた。

「これは……駄目?」

落ち着いた色味のアンサンブル。一見地味だが、胸元の大きなリボンが可愛らしい。
恐る恐る彼を見ると、私の視線に気付いてにっこりと笑った。

「可愛いね。フィナに似合うと思う」

「本当!?」

「うん。じゃあ、これにしようか」

「うん!」

フレンにお金を払ってもらい、紙袋に入った服を私が受け取った。

「はいよ、お嬢ちゃん。落とさないようにね」

「はい」

大切にしないと。自然とそんな気持ちが湧いてきて、両手でしっかりと紙袋を抱きしめた。


「ユーリじゃないか」

傍らに立っているフレンが、通りの向こうを見て声を上げた。
ユーリ。旅の途中で聞いた、フレンの幼馴染の名前だ。私と同じ黒髪黒目で、……フレンの、彼女かも知れない人。
心臓がバクバクと大急ぎで働き出した。
敵がくるぞ。身構えろ!頭からそんな指令が行ったんだろう。足がすくんで、体が固まった。
本当に彼女だったらどうしよう。フレンが女の人と仲良くしている所なんて見たくない。
異世界で一人ぼっちなんて目じゃない。それ以上に怖くて嫌だ。
不安が先立って、フレンの声に含まれていた険しさに私は全く気付いていなかった。

「よお、フレン」

答えたのは男性の声だった。もしや、ユーリさんは彼氏持ちなのか。
希望の光が射した気がして、そむけていた顔を声のしたほうへ向けた。
すらりとした長身に、黒の綺麗なストレートロング。漆黒の瞳に、はだけた黒服から覗く―――胸板。
一瞬、何を見たのか分からなかった。途中までは確かに、話に聞いていたユーリさんだったのに。
こちらに歩み寄ってくる彼は、私が想定していた人物と違う。

「帰ってたのか」

「ああ。昨日帝都に着いた」

フレンは普通に、黒髪の男性と話し始めた。
ということは、性別は違うがこの人がユーリでいいようだ。幼馴染のユーリ。
女性じゃ、彼女じゃなかった。緊張の糸がぷっつんと切れ、呆然と彼を見つめた。
顔は危惧していた通りの美人さんだった。けれどぶっきら棒な仕草と口調は確かに男のもの。

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