□1
[ 25/156 ]
大きな通りの両側に、数え切れないほどの店が並んでいた。
祭屋台や定期市で見たような形の店舗。けれど素材はビニールと鉄棒ではなく布と木だ。
並んでいるのは食べ物に食器や衣服といった日用品に、剣や斧などの武器……そして私にはよく分からないもの。とにかく多岐に渡っている。人も多く、すれ違う人々も様々だ。髪の色も目の色も、見たことのある色もあればマンガでしか見たことの無い色をもっている人もいる。
ふと、店にリンゴが並んでいるのが見えた。赤い色と丸い形。どう見てもリンゴだ。この世界にもリンゴがあるらしい。そういえば、昨日フレンに「リンゴみたいな顔」と言われたばっかりだった。味も同じなのだろうか。
「手を離しちゃ駄目だよ。迷子になってしまうからね」
言われてフレンを見上げた。移動の際には手をつなぐのがお決まりになりつつある。
今日の彼は鎧を着ていない。動きやすい布の服。袖も襟元もきっちりとして、彼らしい清潔感がある服装だ。
……こういう格好のフレンもいいかもしれない。
慣れない格好の彼に、心臓が驚いてどぎまぎしている。けれど、苦しいわけじゃない。わくわくしているような、何ともいえない幸せな気持ちだ。
不思議だ。今の私は家に帰れず、親や友達にも会えず、無一文。その上慣れない全くの異文化、異世界の中にいるのに。もっとナーバスになったり、この世界に怯えていてもおかしくないはず。それなのに。この気持ちは、何なんだろう。
「あの服なんてどうかな」
フレンがお店にかかっている服を指差した。今日は私の服を買いに来ているのだ。
彼が選んだ服は、色も形も落ち着いていて……悪く言えば地味なワンピースだった。
「……フレンはこういう服が好きなの?」
「落ち着いてていいと思うよ。気に入らなかった?」
正直私の好みじゃない。もっと綺麗な色の服のほうがいい。……でも、彼が好きなら着たい。
矛盾した気持ちが、私の中で小さな武力衝突を起こした。決着がつかないまま店の前まで行き、彼に言われるままサイズを見てもらった。
「すこし大きいですね。でも子供は成長が早いですから、すぐぴったりになりますよ」
商人のおばさんが人のよさそうな笑顔を浮かべた。
「そうですか。どうする? フィナ」
生返事を返してお店を見回した。スカートにズボン、Tシャツにブラウス、のような服。結構な種類がある。
「これ、可愛い」
目に止まったのは綺麗な空色の服。裾に黄色のつる草を模したような縁どりがある。
「それは……どうかしらねえ」
おばさんが気まずそうに乾いた笑いを浮かべた。
何か間違えただろうか。心配になってフレンを見上げると、彼も難しい顔をしていた。