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「フレン、見て見て!」
私の両手いっぱいの木の枝を見て、フレンは顔を綻ばせた。
「すごい、たくさん取ってきたね」
枝の束を受け取り、焚き火にくべる。少し火の勢いが弱まるが、少しずつ新しい枝にも火が移っていった。安全圏内での薪集めも大分慣れた。けれど、おそらくこれが最後だろう。帝都には今日中に着いてしまうらしい。
険しい道は既に抜け、今は穏やかな平地の道が続いている。このまま、目的地まで問題なく着きそうだ。
慣れたといえば、ようやく彼にも慣れてきた。会って間もない人を相手にすると、何を話していいのか、どんな反応を返していいのか分からなくなる。無意識に警戒してしまって、無口になりがちだ。
今はもう自然と話したい事が出てくる。「もっと仲良くなりたい」というフレンの申し出で、敬語無しになったのも話しやすくなった理由の一つだと思う。
「フィナは騎士団に所属していない一般人だからね。僕たちはただの友達同士だ。なら、敬語は必要ないだろう?」
ということらしい。
「おチビちゃん、今日は怖い鳥さんに会わなかったかい?」
料理当番の人が、お鍋を持ってやってきた。この人はフレンと同い年くらいに見えるが、役職的には平社員らしい。
「はい。平気でした」
私の返答を聞いて、彼はおやっという顔になる。
「もしかして、俺、偉い人に見える?」
どうやら、フレンにタメ口で、彼には敬語を使ったことが引っ掛かったようだ。
「いえ、そういうわけではないです」
「私から敬語を使わなくてもよいと言ったんだ」
なんでまた。小隊長ばっかりフィナと仲良しになってズルイです〜と、ぺちゃくちゃ喋りながら彼は手も動かし、鍋のセッティングを完了させた。
「そういえばこの子、ユーリと髪と目の色が一緒ですよね」
なにやらジロジロ見られていると思ったら、彼はぽつりとそんなことを言った。
ユーリ。初めて聞く名だ。私と同じ色の髪を持つ人はこの隊にいない。誰のことなのだろう。
「そうなんだ。私も彼女を見つけたとき、そう思った」
「もしかして、小隊長がこの子に肩入れするのはユーリに似ているからですか?」
「考えたことは無かったが……案外そうかもしれないな」
はは、と一笑と共に発されたこの言葉によって、私はフライパンで叩かれたような衝撃に襲われた。
彼女だ。『ユーリ』はあからさまに女の名前だ。
黒髪黒目でロングヘアの、たぶんきっと美人な彼女がいるんだ。
その人と私が重なったから、彼は私に親切にしてくれているんだ。そもそもフレンはこんなに格好良くていい人なんだから、世の女の人がほうっておくわけが無かったのだ。